すえこさんが目指したのは関東制覇だ。埼玉近郊のレディース10チームで連合を組み、敵対するチームをつぶしては連合に入れていった。
「私、喧嘩は強かったです(笑)。髪をつかんだり、引っかいたり、取っ組みあったり。10分もかからない。非行に走ったきっかけはボタンのかけ違いだったけど、走り出したら、もう止まらない。上へ、上へ。やればやるほど認められる気がして。私が天下を取るためには、人を傷つけてもしかたないと考えていました」
あるとき、つぶし合いの喧嘩で相手チームの1人に大ケガをさせてしまう。誰がやったのか不明だったが、総長のすえこさんが傷害容疑で逮捕された。
家庭裁判所の審判で、少年院に送致されると、今より格段に多い120人ほどがいた。1年2か月の少年院生活で得たものは多かった。
「ワープロ3級の資格を取ったんですが、一生懸命、練習して結果が出せた。そういう経験ってあまりなかったので、うれしかったですね。規則正しい生活でご飯はおいしいし、いろいろ教えてくれる先生たちに感謝の気持ちを素直に伝えることもできました。
ただ、自分のやったことへの反省はまったくしていなくて、暴走族に戻ってもうひと花咲かせるつもりでした」
ところが、出院したすえこさんを待っていたのは、紫優嬢の破門という現実。信頼して留守を託した親友に裏切られたのだ。メンバーから呼び出され、ケジメだと全員にひどく殴られた。
「私だけ目立っていたのを嫉妬していたみたいです。そのとき初めて、殴られる側の恐怖心や暴力の怖さがわかりました。
本当につらかったのは、そこからです。不良の世界しか知らないから、どう生きていいかわからない。自分なんかどうなってもいいと感じているときに、昔の不良仲間にすすめられたのが覚せい剤でした。今の自分にぴったりだと迷わず打ちました」
2度の結婚
出院から半年後に現行犯逮捕。拘置中に妊娠がわかった。
「何しているの! お腹にいる命は、お母さんになるお前にしか守れない命なのよ!」
面会に来た母の敏子さんに厳しく叱責され、すえこさんは「このままじゃ、人の心を失っちゃう。非道な人間にはなりたくない」と恐怖心にかられた。「変わりたい」と思ったのは、そのときだ。
敏子さんは「人として当たり前のことを言っただけなんだけどね」と笑う。
「それまでも何も言わなかったわけじゃないんだけど、聞く耳は持たなかった。すえこは自分の思い立ったことはやりたいんだよ。よかろうが悪かろうが、何でも。あの子の人生はあの子のものだから、しょうがない。そう思うしかなかったよね。ただ、どんなに踏みつぶされても立ち上がる子だから、そういう面では安心してたかな」
すえこさんが心から反省している様子を見て、審判で「今の君なら大丈夫」と言われ、保護観察処分になった。だが、覚せい剤の影響も考慮し、赤ちゃんはあきらめた。