長雨のあがった10月の午後、東京・表参道のスタジオにブロンドヘアの女性が颯爽(さっそう)と現れると、その場の空気が一気に華やいだ。
「ハイ、ハウアーユー?」
太陽のような笑顔のその人はカオリ・ナラ・ターナーさん(85)。アメリカ、ハリウッドでメイクアップアーティストとして、映画『フラッシュダンス』('83年)や『アメリカン・ビューティー』('99年)、人気テレビドラマ『アリー my Love』などを手がけ、テレビ界のアカデミー賞といわれるエミー賞を日本人として初めて受賞した人物だ。現在もハリウッドのメイクアップアーティストのユニオン(組合)に所属し、活動を続ける。
どこへ行っても「ミススマイル」と呼ばれて
「ユニオンでは奇跡の人って言われてるの(笑)。実際は“アクティビティー・イン・リタイアメント(退職後の活動)”で、もう年金をもらっている立場なんだけどね。電話がかかってくれば出かけていくのよ。昔スターだった人がトークショーに出たり、オスカーのプレゼンテーターで出席するときにオファーをくれるんだけど、楽屋で懐かしい人に会えるのが楽しいの!」
カオリさんはジュリー・アンドリュース、ブルース・ウィリス、ジョージ・クルーニーといった大物俳優たちから愛され、たびたびメイクの指名を受けてきた。その技術はもちろんのこと、ジョークやマッサージで彼らをリラックスさせ、生き生きと仕事場に向かわせることでも定評があったという。
「俳優は緊張を強いられるかわいそうな職業なのよ。撮影の1時間前から口をきかない人もいたわ。少しでも和やかな雰囲気をつくってあげようと思ったの。英語が得意じゃなかったけど、ヘタなのを気にせずにカタコトで話していたのもウケたみたい(笑)。言葉を補うために笑顔で気持ちを伝えるようにしたら、どこへ行ってもミススマイルとかミスサンシャインと呼ばれるようになったのよ」
そう話すカオリさんには年齢を感じさせない若さがある。
「女性に生まれたからには、お化粧で大いに化ければいいと思うの。なんで80だからって80の顔しなきゃいけないの? って」
年を重ねると女性はメイクをしなくなるが、年をとった人にこそしてほしいという。
「15分ですんでいたお化粧が30分になり、80過ぎたら小1時間かかります。とにかく手抜きをしないことね」
親交の深いタレントのLiLiCoさん(49)は「プロだからいろんな方法をご存じということもありますが、内面のチャーミングさからつくられているんだと思う」と語る。
「いちばんビックリしたのは、お家にお邪魔したとき、テレビに純烈が出ていたから、私、この人と結婚したんですよと言ったら、“あら、タイプだわ。あなた、私が85歳でラッキーだったわね。いま私70歳だったら奪い取ってたかもしれないわ”って言われて。なんてお茶目な! って思ったのと、ちょっと危ないな、取られるって思いました(笑)」