『火花』で芥川賞を受賞してから4年。又吉直樹さんにとって初の長編小説となる『人間』が刊行された。この作品は毎日新聞に全200回にわたって連載され、単行本になる前から大きな話題を集めていた。
こういうときに人間はどうするんやろう
「新聞には日曜と祝日を除いて毎日掲載されるので、覚悟はしていましたが、執筆はかなりタイトでしたね。原稿のストックがどんどんなくなって、連載の後半は時間との闘いでした。
ただ僕自身もギリギリまで粘っていいものを書きたいという気持ちがあったし、追い込まれたからこそ、普段は出てこないような予定調和ではないくだりがいくつも生まれたと思う。単行本になるときに多少は直しましたが、連載時のライブ感は極力残しています」
タイトルを『人間』としたのもチャレンジングだ。「人間とは何か」という壮大なテーマにつながる言葉であり、又吉さんが敬愛する太宰治の『人間失格』を意識したようにも思える。
「僕は“人間”という言葉が好きなんです。人間が人間のことを人間って言わないですよね。『そこに犬がおったで』とは言っても、『そこに人間がおったで』とはあまり言わないし、自分のことを『僕は人間です』って紹介する人もいないだろうし。だから『人間って何やろ?』って思うんです。
書いている間、『人間とは何か』みたいな大きなことをずっと考えていたわけではないですけど、『こういうときに人間はどうするんやろう』ということは丁寧に追っていったつもりです」