世間は勝手に決めつけるじゃないですか。女性に対しても、結婚していない人はかわいそうとか。うちの姉なんて、学生時代から絶対に結婚したくないと言っていて、その言葉どおり今でも独身ですけど、その姉に対して誰かが『いい年なのにかわいそう』なんて言ったら、ものすごく失礼やと思う

 他人に対して『女性だからこうあるべき』とか『芸人だからこうあるべき』とか、人を何かに閉じ込める方向に思考が向く世の中は息苦しいし、そもそも『人は何者かでなければならない』と思わされていること自体が病ですよ

 自分や他人が何者だっていい、それをただの『人間』と言ってしまいたい。このタイトルにはそんな思いもあります」

 本作を書き終えて、「今後の僕はより自由になっていくと思う」と又吉さん。

「『芥川賞をとったのに、まだコントライブも続けているなんて偉いですね』って言われることがあるんですが、僕としては小説を書くのも、お笑いをやるのも楽しいからやっているだけ。

 やりたかったらやるし、やりたくなかったらやらへん。ただ、そうやって自由に生きていこうと思ってます

【ライターは見た!著者の素顔】

 吉本の養成所時代は、朝までネタを書き、夕方に起きて散歩する生活をしていたという又吉さん。「外へ出ると会社や学校から帰ってくる人たちとすれ違うんですが、自分だけその中にいないことが不安になって

 だから自販機で買った缶コーヒーをずっと持っていたんですが、それは周りから見て“散歩しながらコーヒーを飲んでいる人”という名前をつけてもらうためだった。いま考えると、僕も『何者かでなければいけない』と思わされていたんやなと思います

(取材・文/塚田有香)

『人間』(毎日新聞出版)又吉直樹=著 1400円(税抜)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
【写真】又吉直樹という『人間』をパシャり

●PROFILE●
またよし・なおき
 1980年、大阪府生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑い芸人。2003年にお笑いコンビ「ピース」を結成。2015年、『火花』で第153回芥川賞を受賞。2017年、小説第2作となる『劇場』を発表。他の著書に『東京百景』『第2図書係補佐』など