白鵬の強さの秘密、それは徹底した基礎稽古にあるとはよく聞く。四股(しこ)、すり足、てっぽうという相撲の基本を毎日欠かさず、1日1時間~2時間も繰り返す。でも、それだけじゃないんじゃないか? もっと秘密があるんじゃないか? と思い、「白鵬のメンタル」(講談社+α新書)の著書もある内藤堅志さんにお話を伺った。
引き出しの多さと、整理の上手さ
内藤さんは東海大学で非常勤を務めながら、労働安全衛生研究やスポーツトレーナーとして活動をされている。白鵬との出会いは、まだ白鵬が17歳のひょろっと細い少年だったころに、たまたま宮城野部屋から若い力士たちのトレーナーになってほしい、と依頼されたことに始まる。以来、ずっと近くで白鵬を見て、サポートしてきた内藤さんいわく、今の白鵬の強さの根底にはいくつか理由があるそうだ。
「なぜ白鵬は自分の素質を生かすことができるのか? まずは阿川佐和子さんのような『聞く力』でしょうか。なんでも貪欲(どんよく)に聞いて、大企業の社長さんの話にも幼稚園の子どもたちのおしゃべりにも同じ視点で聞きます。
白鵬は常々『人の話の中にはヒントがある』と言います。そして聞いたことを素直に受け止める感受性があります。素直だから余計なことに意識が向かわず、学び、吸収することができるんです。それは最初から今も変わりません」という。
確かに素直さ、というのは大きなカギかもしれない。まっすぐ受け止め、吸収して動いていく。でも、それだけでは、あそこまではなれない。特に近年はケガも多い。
「白鵬は身体的にいえば、回復力、柔軟性、力強さ、巧緻性、スピードなど恵まれた素質があることは確かです。そして今、何が必要で、何をしなくてはいけないのかを考えられる人です。考える力があります。さらに、素直さにも通じますが、人からのアドバイスは必ずやってみます。合わなければやりませんが、捨てずに取っておきます。数日後、数か月後、数年後にまたそれを取り出して、合えばやる、合わなければまた取っておく、この引き出しの多さと整理の上手さも秘訣だと思います」
それでも34歳の横綱、蓄積された疲労は並々のことでは補えないのも事実だ。満身創痍の身体を支えるにはどうしているのだろうか?
「今場所から睡眠のデータを管理しています。緊張感のある職業ですから、当然ストレスがかかりメンタルが維持できなくなるときもあります。特殊なセンサーを使って、布団の下に敷くだけで睡眠中の呼吸数、心拍数、睡眠の質を把握できる装置があるんです。このデータをクラウドシステムを利用して私が自宅で確認しています。睡眠分析は私が担当しているんです。それを現地にいるトレーナーの先生たちも同時に確認することができるようなインタラクティヴな機能を持たせていて、横綱の睡眠に変化が出たストレスフルな状態なときにはボディケアとともに、自律神経を整える鍼(はり)やマッサージをしてもらいます。
また医療データなども一元化し、横綱がベストな体調で相撲を取れるような仕組みを確立したことが今場所の好調さにつながっていたら、私もとてもうれしいです。日本の伝統『相撲』に近代的なシステムを取り入れているのがチーム白鵬なんです」