特殊清掃業者は、真夏は防護服を身にまとい、滝のような汗をかきながら、完璧ともいえる、プロの仕事を成し遂げる。

 ドロドロに溶けた遺体も、特殊清掃業者のプロの手にかかると、壁紙をはがし、フローリングの下まで解体することもあり、まるで新築同様へと戻る。孤独死などなかったかのように生まれ変わるのだ。

 まっさらになった物件を見ると、彼らは仕事をやり遂げたという達成感で満ちている。

 私はそんな彼らの仕事ぶりに感銘を受けながらも、いつも複雑な心境になってしまう。私たちの社会は、はたして本当にこれでいいのだろうか──と。

現役世代の孤独死は4割。対策に向けて歩み出す

 不動産オーナーなどに向けて、『孤独死保険』を提供する一般社団法人日本少額短期保険協会は、2015年に『孤独死対策委員会』を設置、『孤独死現状レポート』を過去4回にわたって発表している。

 このレポートは協会に所属する各社が持ち寄った案件データを統計化し、賃貸住居内における孤独死の実像をあらわにしている。孤独死の実態について、業界内外に発信することで、孤独死の問題点やリスクについて社会に広く知ってもらうことを趣旨としている。

 この2019年度のレポートによると、高齢者に満たない年齢(65歳以下)での孤独死の割合は5割を超え、 20〜50代の現役世代は男女ともに、およそ4割だとしている。先ほどの男性のような、現役世代の孤独死は決して珍しくないことがわかる。

 今年の11月、この孤独死対策委員会において、『第3回孤独死対策意見交換会』が行われた。この意見交換会は、関東財務局などの行政機関、不動産賃貸業界、少額短期保険業界、孤独死対策に取り組む民間企業などが一堂に会して、孤独死について考える場となった。民間の参加企業も、水道メーターや電気を利用した見守りサービスの企業、特殊清掃業者、居住支援サービス提供企業、65歳から賃貸不動産探しができる高齢者向けポータルサイト、事故物件マッチングサイトなど多種多様な顔ぶれとなった。

 どれも孤独死に関連のある企業だ。これらの業種が集まって孤独死への課題やそれぞれに連携できる箇所や対策などを話し合った。この意見交換会では、民間の居住支援サービス提供業者から行政への具体的な要望が飛び出したり、どう連携すればよいかなど、活発な意見交換が行われた。

 私自身、少しでも力になれたらという思いから、孤独死現場のジャーナリストとして、『孤独死現場の最前線』というテーマで講演を行った。参加者からは反響が大きく、多くの方に孤独死に関心を持ってもらうきっかけになったと思う。他国を見ると、イギリスでは孤独担当大臣を設置するなど、国を挙げての「孤立」「孤独」対策に余念がない。

 まだまだ小さな一歩だが、わが国でも行政と民間企業が手を組むことで、少しでもその解決に向けて未来が開けるのではないかと、小さな手ごたえを感じている。


<プロフィール>
菅野久美子(かんの・くみこ)
1982年、宮崎県生まれ。ノンフィクション・ライター。著書に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)などがある。最新刊は『超孤独死社会 特殊清掃現場をたどる』(毎日新聞出版)。また、さまざまなウェブ媒体で、孤独死や男女の性にまつわる多数の記事を執筆している。