犯行後、犯人は洗面所で手を洗い、しばらく玄関にとどまっていた。たたき部分には血痕とともに24センチの靴あとがいくつも残っていた。
逃走した犯人の血痕は現場から500メートル離れた住宅地まで続いていたという。
DNA鑑定や目撃情報から、血液型はB型で黒髪のパーマが肩まで伸び、黒い服を着た身長160センチくらいの40〜50代の女性だとわかった。
「最新技術でDNA鑑定をして“おとなしめで消極的な性格”ということもわかりました。そんな人がなぜ」
と悟さんは首をひねる。
残る2つの謎
犯行動機は謎に包まれている。警察は怨恨の可能性から、奈美子さんや悟さんの交友関係を徹底的に捜査していたというが、恨まれるような心当たりはなかった。
一方、現場の近隣住民は犯人像をこう推理する。
「このへんで不審者も見たことないし本当にわからない。ただ、当時一緒に子どもを遊ばせていた人、偶然知り合って子どもを預けたりしていた人とかで、ご主人や友人たちも把握していない交友関係があったんじゃないのかしら」
悟さんは通り魔の犯行も考えたという。当時、奈美子さんには同い年の子どもを持つママ友がいた。
「犯人はママたちを狙っていたんじゃないかな。まず狙われたのが奈美子だったのかもしれない……」
もう1つの謎は、犯人は一体どこから来て、どこに逃げたのか。
土地勘があったのか、それとも入念な下見を繰り返したのか。
血痕が途切れた先の住民は不審な女を目撃していた。
「事件があった日の昼ごろのこと、夫が壁にペンキを塗っていたら見慣れない黒い服を着た女が通りかかったそうです。焦っている様子もなく普通だった、と」
時間はお昼。外に出ている人はほとんどいなかった。それも見越しての犯行だったのだろうか。
生前の奈美子さんについて悟さんは回想する。
「奈美子は人当たりがよく、いつも人に気を遣っていた。友人の悩みで一緒に悩んだり。家事も育児もしっかりこなし、家庭を守る、年齢のわりに昭和的な考え方の女性でした」
奈美子さんは女手ひとつで育てられ、結婚前は実家の飲食店を手伝うこともあったため、普通の家庭に憧れがあった。