少年時代に舞台に感動、そのまま俳優の道へ
さまざまな解釈ができる深さがあるからこそ、演じる側にも葛藤がある。
「例えば“猫ってどういうふうに笑うんだろう?”とかね。あのメイクをして衣裳を着れば、一応、猫には見えます。でも、どこまで細部にこだわれるか。また、僕はリーダーという部分を必要以上に意識してしまっていた時期があり、“みんなを引っ張らなきゃ”と、よけいなものを背負い込んでいた。
そういったとき周囲に助けてもらえたし、高めてもらえたんです。おかげで“よしっ、僕もそこまでいかなきゃ”と向上心を持つことができました。僕はつくづく人に恵まれていると思います」
こうした俳優たちのストイックな努力や苦労があるからこそ、観客の演劇体験として深く残るのだろう。加藤さん自身も、北海道に住む野球少年だったころ、忘れられない体験をした。
「高校3年生のとき両親からチケットをもらって、地元に来ていた劇団四季の『クレイジー・フォー・ユー』を見に行ったんです。1度で魅せられて“何この世界!? これやりたい!”と思ったんです。
自分の実力も考えずに。いまならどんなにムチャかわかりますけど、そのときはただ、舞台を見ていた3時間の感動が忘れられなくて。“こんなに人の心を変えられるものがあるんだ!”と初めて知った田舎の少年は、大学よりどうしてもこっちの道にチャレンジしたかった(笑)。
オーディションのときは“場違いなところに来ちゃったな”と思いました。上手に踊れる受験生の中で、ひとり何もできない。たまたま拾っていただきましたが、劇団に入ってからは苦労しました」
そんな加藤さんもいまや、劇団で後輩たちを引っ張るリーダー的存在に。
「僕はもともと、俯瞰的に物事を見て“いまはこうしたほうがいいな”と場を推し量るタイプで、その点ではマンカストラップに通じる部分があるかもしれません。後輩たちの相談に乗るようなポジションにもなってきました。でも、あまりアドバイスをしすぎてもダメだと思っています。本人がちゃんと考えて導き出した答えって絶対、強いから。
失敗するのはいいことだと思いますが、なぜ失敗したのかを分析する、その過程が大事。あのイチローさんだって“いっぱい失敗したことがいまに生きている”というようなことをおっしゃっているんですよ!」
後輩を思うこの考え方は、さすが兄貴分だ。