――確かに、テレビを見ていても、場の空気にそぐわないようなボケを言うと、ツッコまれるというより、潰されちゃいますよね。

 潰されるんですよ。あと、バラエティー番組だったら、もうVTRがボケているわけですよ。だから芸人がボケられないんです。『水曜日のダウンタウン』(TBS系)がいい例で、あれってVTRが一番面白いわけですよ。それに対してのボケってないじゃないですか。

 だから、ツッコミしか必要ないわけですよ。要するに、作家とかディレクターとか作る人のほうが面白くなっちゃってる。だからたぶん、ボケの人が作る側に回るほうがいいんじゃないかなと思うんですよ。

――なるほど。

 演者としてはもうボケは必要とされてないんだと思いますよ。俺なんかも結局そうじゃないですか。考えるのは好きだけど、やるほうはあまり好きじゃないから。

――そうなんですね。

 だって、やるときにうまみがないじゃないですか。ボケってどっちかって言うとやらせるほうでしょ? だから、藤井健太郎さん(『水曜日のダウンタウン』などを手がけるTBSの演出・プロデューサー)が一番のボケじゃないですか。あの人の作るものが面白いから、それ以上にもうボケられないでしょ。でも、松本さんはそこでさらに面白いことを言って終わるからすごいと思いますけどね。

ナイツ塙の野望

――ボケ不遇のこの状況は今後変わる可能性はあると思いますか?

 あまりないと思います。だから、僕みたいなタイプはもうずっと漫才をやるのがいいのか、あとは自分でなんかそういうちょっと訳わからない番組をできればいいんじゃないですかね。そういうのも松本さんが全部やってきているんですよね。『働くおっさん劇場』(フジテレビ系)ってあったじゃないですか。5人くらいの訳わからないおじさんがいて、松本さんがずっとインタビューするやつです。

――はい、あれは面白いですね。めちゃくちゃ好きでした。

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 僕はああいうのをやりたいんです。僕が向いているのはああいうのでしょうね。だから今、それに近いことを浅草の師匠でやっているんですよ。(内海)桂子師匠に「おい、ババア」って言ったりとか、そういうのは僕にしかできないじゃないですか。

――なるほど。おぼん・こぼん師匠の不仲をネタにしたりするのもそうですよね。

 ああいう切り口とかはあるかもしれないですね。

――じゃあ、塙さんとしては、自分のボケとしての体質を生かせる番組や企画をやりたいという野望はあるわけですね。

 そうですね、もちろんあります。今も別に割と幸せに生きているので、なんかあったらいいな、っていうくらいですけど。ちょっと下ネタとか、エロい番組でもいいし、自分が面白いと思うことをやりたいですね。


ラリー遠田(らりーとおだ)作家・ライター、お笑い評論家 主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

ナイツ塙 芸人。1978年、千葉県生まれ。漫才協会副会長。2001年、お笑いコンビ「ナイツ」を土屋伸之と結成。2008年以降、3年連続でM‐1グランプリ決勝進出、2018年、同審査員。THE MANZAI2011準優勝。漫才新人大賞、第68回文化庁芸術祭大衆芸能部門優秀賞、第67回芸術選奨大衆芸能部門文部科学大臣新人賞など、受賞多数。