依存症の本質=つながりの喪失
依存症によって、ひとたび脳がハイジャックされた状態になると、もとに戻ることは難しい。だが、同じ問題を抱える仲間と出会うことにより、回復できるといわれている。
「依存症の治療は、共通の問題や悩みを抱えた当事者同士が支え合う自助グループが核になっています。なぜ当事者が話し合うことで回復に役立つのかはわかっていません。ただ、つながりによって絆が深まり、癒されるのではないでしょうか。依存症で問題なのは孤立です。困ったときに相談できる人がいないことです。依存症の本質とは、つながりの喪失ともいえます」
現在の日本では、依存症者が社会とつながりを結び直すには困難がつきまとう。薬物依存症のリハビリ施設の建設に住民から反対運動が起きたほか、芸能人の薬物犯罪による報道でもバッシングが続いた。
「依存症の人たちは周囲からのバッシングを受け入れて、自分自身にダメな人としての烙印を押してしまいます。すると、ますます助けを求められなくなる。すでに治療につながっている人たちでさえ希望が持てなくなり、ドロップアウトしてしまいます」
これでは治療を妨げ、回復から遠ざけてしまいかねない。もし身近に依存症の人がいたらどうすべきか。
「依存症である本人を変えようとしないでください。説教は効果がありません。家族ならば、責めるのではなく、心配していること、かつ、医療の助けが必要だと伝えることです。家族が相談機関につながるだけでもかまいません。それで状況がいい方向へ変化していくこともあります」
なにより、社会の理解が回復の一助になるだろう。
(取材・文/ジャーナリスト・渋井哲也)
《PROFILE》
松本俊彦さん ◎精神科医。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長。依存症に悩む当事者に向き合い診療や研究に取り組んでいる。『薬物依存症』ほか著書多数