ほとんど覚えていない
田村家を知る関係者はこう証言する。
「“ハイソ”な家だったようで、容疑者の母から娘にお茶や乗馬を習わせていて近くの乗馬クラブに通わせていると聞いたことがあります。そのころの趣味が高じて今回の事件になったのでしょうか……」
母親は町内会の役員を長く務め、料理上手で、近所に手作りのマドレーヌを配るなど、“ハイカラ”な女性でもあったという。
一方、地元の同級生を訪ねると、
「あの事件の本人とは知らなかった。彼女をほとんど覚えていない」
「地元で毎年のように同窓会をやっているけど、1度も来たことがないし、彼女の話が話題にのぼったことは1度もない。たぶん交友関係が狭いんだろうね」
と影の薄い存在だったようだ。やっとかすかに記憶にある人物にたどり着くと、
「確か小5で転校してきて、中学校では体操部だったと思う。シャキシャキして可愛かったけど、男にモテるとか、そういうのでもなかった。運動でも勉強でも、まったく目立たない子でしたね」
そして記憶をたぐるように唯一のエピソードを明かしてくれた。
「まだこのへんでは、バレンタインデーという習慣がなかった'71年ごろ、彼女だけが好きな男子にチョコレートをあげたのよ。それで女子の間では“あの子は生意気だ!”と総スカンをくらったみたい。おそらく、彼女は人嫌いになったのかも……」
学校では孤立し、やがて家族もいなくなった容疑者にとり、唯一の居場所は馬場だったのかもしれない。しかし、資産家かよほどの稼ぎがなければ馬は所有できない。
手綱を引いてくれる者がいない環境のなかで、田村容疑者は次々と会社の金に手をつけていった……。