そもそも、「ひきこもり」とは特定の人物を指す名詞や、病気や症状の総称ではなく、“状態”である。
ひきこもりは“怠けている”のか
厚労省の『ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン』では、以下のように定義されている。
《様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交友など)を回避し、原則的には6ヶ月以上にわたって概(おおむ)ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である》
会社でのパワハラやセクハラ、過労やいじめによって傷つけられた人。あるいは、病気やPTSD(心的外傷後ストレス障がい)などのトラウマによって、身体の自由がきかなくなってしまった人。家庭環境のコミュニケーションがうまくいっておらず、身動きがとれない人まで……。
なんらかの理由で自分を守るため、安心できる自宅に退避して、そこが居場所となっている。そんな“状態”の人たちを無理に連れ出そうとしても厳しいに決まっているし、何より、どんな人生を送っていようが、他人が口出しするべきでないのではなかろうか。
「ひきこもる人のなかには例えば、ブラック企業でパワハラを受けたり、過労に追い込まれていたり、または、虐待による後遺症で大人になってからPTSDが発症し、自分でもコントロールができなかったりするケースもある。それを“怠けている”とくくるのには、相当のズレがありますよね。
“働かないし、社会に迷惑をかけている。だから、外に引き出すべき。そうすることは、親の責任である”というのは、誤った幻想です。少なくとも115万人もの人が追い込まれている状況を、本当に自己責任として片付けられるのか。これだけ多くの人がなぜ、社会経験がありながらも、ひきこもらざるをえなかったのか。その点に着目して、社会の側の検証をするべきだと思います」(前出・池上氏)
115万人いれば、115万通りの“状態”がある。だから当然、就労させるためのサポートセンターを用意して、無理やりに働かせようとすればすむ話ではないのだ。
そして、いざ働こうと思っても、履歴書に空白期間があると、途端に話が進まない、という事例が相次いでいるという。
「そもそもハローワークやサイトなどの求人には、行ってみたら詐欺まがいの仕事だった、というひどい例を筆頭に、ブラック求人、空求人も横行している。八方塞がりといえる状況になっているんです」(池上氏)