喜んだ気持ちはいい種になって心に落ちてる
小雁さんが認知症と診断を受けてから約2年半。介護をする寛子さんは軽やかです。「主治医の先生が、『認知症の人は覚えてないことが多いから、介護する人は残念でしょう。でもね、喜んだ気持ちはいい種になって心に落ちてるんです』って。それがストンと腑(ふ)に落ちたんです」
目が不自由な人には「なんで見えないの?」と言わないのに、なぜ認知症の人には「なんで覚えてないの?」と言ってしまうのか。同じようにとらえよう──いまの寛子さんはそう考えます。だから小雁さんが「家がどこかわからへん」と言うと、「大丈夫。私がわかってるから」と声をかけます。
「主治医の先生には、『介護する人とされる人は“合わせ鏡”』と言われましたが、本当にそのとおりで。私が『大丈夫』と言えるようになったら、小雁さんの徘徊(はいかい)もなくなったんです」
外出時はいつも手をつなぎます。「なにより私はこの人が好きやから、お世話が全然苦じゃないんです」。そう寛子さんが言えば、「ケンカもせえへんしな」と小雁さん。今日も二人は温かな笑いのなかにいます。
【寛子さんの支えになった主治医の言葉】
・「喜んだ気持ちはいい種となって心に落ちている」
・「介護する人とされる人は、合わせ鏡。介護する人が笑っていれば、介護される人も笑う。でもそうでないと……」
・「認知症の人は、いつもエンジン全開の状態」
介護される側の気持ちに寄り添い、認知症理解の手がかりに。「認知症のイメージが変わった」と寛子さん。
【芦屋夫妻を支える『チーム小雁』三人衆 】
訪問介護員の西本さんは通称「買い物のお兄さん」。ケアマネージャーの市田さんは“小雁スイッチ”の発見者。寛子さんにとっての「お守り」を届けてくれた村上さんは介護用品のレンタル業者。
《PROFILE》
芦屋小雁さん ◎あしや・こがん。1933年、京都府生まれ。15歳で兄・芦屋雁之助と漫才を始め、舞台やテレビ、映画などで活躍する喜劇俳優に。神戸映画資料館名誉館長。
西部寛子さん ◎にしべ・ひろこ。1964年、京都府生まれ。1996年、芦屋小雁さんと結婚。マネージャーとして公私をともにする。「勇家寛子」の名で女優、時代劇や映画の所作指導も。
(隔月刊誌「NHKガッテン !」2020年3-4月号/総力29ページ巻頭特集『認知症が“怖くなくなる”予防と介護の新対策』より)