『麒麟がくる』は右肩下がりになってしまうのか

「20%超えのひとつが、緊急生放送と銘打ったイモトアヤコの結婚発表でした。ああいった大胆な仕掛けを打てることが、イッテQの強さを物語っています」と説明する。

「結婚発表は、内村光良さん、(総合演出の)古立善之さんを含めて数人しか知らなかったそうです。番組を担当する放送作家やディレクターにも知らされていなかったため、放送後の会議で謝られたと聞きました」(テレビ関係者)

 内村を除く出演陣が「何が始まるの?」と慌てふためいていた姿は、ヤラセでも何でもなくリアルな演出。数人しか知りえない中、スポンサーの理解も得たうえで、緊急生放送というサプライズを敢行できるのは、「長年愛され続けてきたイッテQだからこそ可能」と続ける。

 しかも、緊急生放送を告知するや、ツイッターなどのSNS上では、「ついにベッキーが復帰!?」、「イモトがエベレストに挑戦するのか!?」という具合に予想が飛び交う活況状態に。そのうえで、しっかりと同番組年間('19年)最高視聴率22・3%をたたき出したのだから、見事な戦略というほかない。イッテQが、まだまだ求心力のある番組であることを裏づけた格好だ。

 前出の放送作家も同調する。

「ワンコンセプトではないのがイッテQの強み。コーナーを変えたり、演者を代えることでいくらでもテコ入れが可能です。10年以上かけて作り上げてきたイッテQという看板はだてではない。逆に、ポツンはワンコンセプトの番組。飽きられたときに、テコ入れをすることが難しいのが懸念材料でしょうか」

 イッテQ、ポツンの2強は盤石と、テレビ関係者は予想する。出だしこそ好調だが、本当に大河の復権は実現するのか─。回を重ねるごとに右肩下がりになっていく大河を、私たちは何度も目撃している。

 好ダッシュに気を吐く大河だが、一方で開始早々に「目がチカチカする」と色鮮やかな衣装や、画面の明るいトーンにケチがついた。だが、ドラマウォッチャーでコラムニストの吉田潮さんは「期待感の表れ」と分析する。

「'10年の『龍馬伝』の放送当初も、“埃だらけで汚い”と話題になりましたが、フタを開ければ、その年の年間ドラマ視聴率1位(24・4%)に輝きました。ドラマの本筋とは関係ない部分が話題になるということは、それだけ視聴者の関心度が高く、細かいところまで注目して見ているということ」

 前出の木田放送総局長は、鮮やかな衣装について「時代考証に基づいている」と語り、無名時代の明智光秀は謎が多いことから「想像力たっぷりののびのびとした世界を作っているのが魅力」と、期待をもたせる。

長谷川博己は、ベビーフェイスな役だけではなく、『セカンドバージン』では不倫をする、『MOZU』では狂気の犯罪者を、という具合にヒール役もできる。初回で、民を守るという“民ファースト”の光秀が、いかにして本能寺の変という日本史上に残る謀反へとたどり着くのか……幅の広い演技派だからこそ、“どんな明智像を作るのか?”というワクワク感があります」(吉田さん)

 さらに、吉田さんは視聴率を押し上げる要素として次の点を挙げる。

『花燃ゆ』『八重の桜』『西郷どん』のように、俳優がやたら上半身裸にされたり、男同士が集団で絆を深めるホモソーシャルな要素がある大河は、女性の間でも話題になる。こういった要素に鑑みるに、まだ明かされていない光秀の同僚となる信長家臣団のキャスティングが鍵を握るのではないでしょうか

 佐々木蔵之介演じる秀吉のほか、誰と長谷川博己を組み合わせるか。

「ドラマ好きからすると、平山浩行や和田聰宏といった味のある演技派のイケメンが登場するとガ然、興味が湧きます(笑)。また、森蘭丸も重要な役どころでしょう。若くして確かな演技力を持つ、望月歩あたりが演じてくれたら本能寺の変はゾクゾクするものになるのでは。こういった想像が楽しめる時点で『麒麟がくる』は期待できますよね」(吉田さん)

 よほどの下手を打たない限り、麒麟のはずが竜頭蛇尾……なんてことにはならなさそうな今回の大河。

 先のテレビ関係者も、次のように付言する。

「現在、大河はBSと4K放送でも視聴できます。視聴率が分散される中で、日曜夜8時だけで19%を獲得したことは、大河の底力を物語っています。大河が好調を維持し続けるのは想像に難くないため、三つ巴の戦いになるでしょう。ですが、それぞれのカラーがうまく異なっているため、食い合うようなことは起こらないのではないでしょうか」

 戦争ではなく共闘。

「日曜夜8時を盛り上げ続けられたら」という前出の植田プロデューサーの言葉に加えて、「番組を作る側からしたらシャッター商店街にお店を構えるよりも、活況な人通りに構えたほうがいい」と、強調するのは放送作家A氏。

 さらには、「今年4月から視聴率は、従来の世帯別視聴率のほかに、個人視聴率、(後追い視聴や録画再生を含む)タイムシフト視聴率など、視聴率の領域が多様化します。従来の視聴率だけで番組を評価する傾向も変わってくるでしょう。視聴率が細分化する中で、わかりやすい形で、日曜夜8時にテレビを見る習慣が戻ってきた状況は喜ばしいこと。このまま大河ドラマが好調を維持すれば、さらに人通り(視聴者)は増える。寄り道をする人も増えるでしょうから、TBS、フジ、テレ東にもチャンスが出てくる」

 意外にも三つ巴の戦いは、日曜夜8時の活気を呼び戻す“前哨戦”にすぎないのかも。