「やさしいだけの男はつまらない」

 平方さんが俳優への道を進んだのは、自ら抱いた夢というわけではなく、なりゆきだったという。

「僕は小さいころパイロットになるのが夢だったんです。でも親に『元くんはお腹が弱いから無理よ』と言われて、それからは夢がなかった。大学には入ったんですが、やめざるをえなくなって、その後はフリーターのような生活をしていました。そのとき、事務所の方と会う機会があって。食べていくために『やりたいです!』って言ったんですよ。事務所に入れば3日後くらいにはもう売れちゃうのかな、なんて考えてました(笑)。本当にトンチンカンでしたね」

 俳優として情熱を持てるようになったのは、ミュージカルと出会ってから。

「稽古場で細かいことを言われるのが最初は嫌でしたけど、『あのときこんなふうに思ったから言ってくれていたんだ』とか気づくこともあって、ミュージカルがどんどん好きになっていきました。

 でも実は、好きになって、嫌いになっての繰り返しですよ。嫌になったら『なんで歌わなきゃいけないの? もう嫌だー、なんで? なんで?』ってなる(笑)。また何か月かしたら好きになるってわかっているんですけどね」

 昨年は、休む間もなく作品が続き、「2週間しか稽古できずに幕を開けていた」という平方さん。

 なかでも田代万里生さんと交互に役を入れ替えて演じたふたりミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』は印象的だった。

めっちゃ大変でした! でも、どんなに稽古期間が足りなくても幕は開く。初日にはお客さんがいてくれるじゃないですか。『お客様~! ありがとう~!』っていう、そこ。

『いい』でも『悪い』でもいい、そこにいて何かを感じてくれる人がいれば最高、と思えました。僕も大変でしたけど、お客様も頑張って見に来てくださって、感想をいただける。『その人たちに届けたい』という気持ちになるから頑張れるし、ファンの人たちの力ってすごい。僕にとってはお守りみたいな感じです」

 長身に童顔、素直でさわやかな印象の平方さんだが、その内には燃えるパッションがある。いま彼が抱いている野心は「日本初演の作品にもっと関わりたい」というもの。

ものすごく大変なのに、そこに帰りたくなる自分がいて。『変だな、自分』って思いますよ。あんなにもがくし寝られないし苦しいのに好きなのかって(笑)。どうもゼロから作るのが好きみたいです。ダメ出しは『自分を否定されているみたいで苦手』という人もいるけど、いまやったのがダメってだけだから『わかった』って次に進めるし。

 あまりいろいろ決めないテキトーさが僕の個性かな。高校のときに先生が『しなやかさとしたたかさを併せ持て』という言葉をくださって、目指すのはそこ。ただやさしいだけの男はつまらないから。そういうところはジョーという役にも共通しているので、また新鮮な気持ちで向き合いたいと思います!」


ひらかた・げんき 1985年12月1日、福岡県生まれ。2008年に『スクラップ・ティーチャー~教師再生~』でデビューし、2011年に『ロミオ&ジュリエット』のティボルト役でミュージカル・デビューを果たす。以後、『エリザベート』『マイ・フェア・レディ』『レディ・ベス』『王家の紋章』『サムシング・ロッテン!』『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』などに出演。10月には帝国劇場でミュージカル『ローマの休日』にジョー・ブラッドレー役で出演予定。

 ミュージカル『サンセット大通り』

ミュージカル『サンセット大通り』 (c)ホリプロ
ミュージカル『サンセット大通り』 (c)ホリプロ

 ミュージカル界の巨匠、アンドリュー・ロイド=ウェバーが、ハリウッドの内幕を描いた1950年の映画をミュージカル化。サイレント映画時代の大女優、ノーマと出会った若き脚本家のジョーが、彼女に翻弄されていく。日本では2012年に安蘭けいのノーマ、田代万里生のジョーで初演。2015年には安蘭&濱田めぐみのWキャストで再演され、今回は3度目の上演となる。演出は鈴木裕美。3月14日~29日 東京国際フォーラム ホールCにて上演される。問い合わせ:ホリプロチケットセンター 電話03-3490-4949。詳しい情報は公式HP(https://horipro-stage.jp/stage/sunsetblvd2020/)で確認できる。

取材・文/若林ゆり