最大の理解者である父と、愛犬の死
大事な人との別れを乗り越え、懸命にリハビリを続けて前へ進もうともがく日々の中、またしても滝川さんを試練が襲う。
リハビリ病院を退院して、ようやくひとり暮らしを始めて環境を整えているさなか、実父が心筋梗塞により急逝したのだ。
事故後も遠く離れた実家から見舞いに来てくれ、何かを決断しようとするたびに「英治のやりたいようにやれ」と言ってくれていた父。ひとり暮らしを決めたときも、周囲の大反対の中で賛成してくれたうえで「2度と大阪に戻ってくるな」とあえて告げてきた、大きな存在だった。
最大の理解者を失ったことは滝川さんに計り知れない衝撃を与え、それは血尿や過呼吸となって身体に現れた。折りしも、『滝川英治ドキュメンタリー「それでも、前へ」』が放送される前日のことだった。予定どおり放送するか延期するか、判断を求められた中で、「それでも、前へ」というタイトルが、父の言葉に重なって見えた。
「何があっても進め、英治。
這ってでも進め、英治。
振り返らず進め、英治」
それは、滝川さんにとって、父からの最後のメッセージとして映った。進むべき道を示している……そう受け取った滝川さんは、予定どおりの放送を要望した。
悲しい別れは、もうひとつあった。目に入れても痛くないほど可愛がっていた愛犬のパールが亡くなったのだ。東京でずっとともに暮らし、事故後は大阪の実家から見舞いに連れてきてもらうのを、なにより楽しみにしてきた。それだけに、老いた母に世話をまかせ、最期を看取ってもらう状況になったことを悔やんだ。常に前を向こうとしている滝川さんだが、「なぜ、こんな身体になってしまったのだろう」と自分を責めた。
事故後、休業を余儀なくされていた滝川さんの復帰第1弾の仕事となったのが、2019年1月にスタートした『PARA SPORTS NEWS アスリートプライド』(BSスカパー!)のMCだ。経験豊富なアナウンサーとともに一線で活躍するパラアスリートをゲストに迎え、パラスポーツの情報と魅力を伝える、エンターテイメントニュース番組である。
MC出演のオファーがあったのは、くしくも父親が逝去した翌日。「この仕事は天国の父からの贈り物だ」と感じて、所属事務所の社長と泣いたという。出演を受諾し、パラスポーツをイチから勉強し始めた。
『アスリートプライド』のプロデューサーの笠井昌章さんは、パラスポーツの魅力を伝えられるMCとして、滝川さんに白羽の矢を立てた。過去に滝川さんの出演したテレビ番組でそのスポーツマンぶりを知っており、ドキュメンタリーでの前向きな姿勢を目の当たりにして、「うってつけの人材」と感じたからだ。実際に収録が始まり、その印象は確信へと変わった。
「バラエティー番組の出演経験もあり、積極的に前へ出る意欲を感じます。予想以上にサービス精神が旺盛で、ときにはしゃぎすぎる場面もありますね(笑)。パラスポーツやパラアスリートについて明るく楽しく伝えることが大事だと考えているので、滝川さんのポジションが重要ですし、これからものびのびと発言してもらいたい」
番組は好評で、当初の30分から45分に時間を拡大して放送されることになった。「今後は滝川さんのコーナーも作りたいし、体調と相談しつつスタジオを飛び出してスポーツ現場での取材もしてほしい」と、笠井さんはますます期待を寄せる。