〈人間・滝川〉の生きざま
とはいえ、ともすれば「無理しがちな性格」であることは、滝川さん自身も制作スタッフも共通した認識だ。収録後、自分の想定した結果を出せなかったと悔やんだ滝川さんは、40度の高熱にうなされたこともあった。また、スタジオから伝えるだけでなく、実際にパラスポーツを幅広く体験したうえで伝えたい気持ちはあるものの、身体の状態を考慮するとその種目は限られたものにならざるをえない。「せめて上半身が動けば、たくさんのパラスポーツを体験できるんだけどな……」と滝川さんももどかしさを訴える。「でも、それを言ってもしかたないな」と笑顔で意識を切り替えた。
番組スタートから1年あまりが経過し、求める・求められることがそれぞれ大きくなっているのは、たがいの信頼関係が順調に構築されているからだろう。それを物語るエピソードを、笠井さんは語ってくれた。最近の収録で、突然、滝川さんの上体がふらつき、姿勢が崩れたことがあった。初期のころなら編集でカットするところだが、そのときの滝川さんのトーク内容がよく、ぜひ放送したいと思えるものだった。
「それも〈人間・滝川〉の生きざまを伝えるもの。そこを編集する必要はないから、そのまま使わせてほしいと話しました。本人もすぐ『いいですよ』と答えてくれました。必要な場面だと滝川さんも感じたから、そういう判断になったんだと思います」
特別視するわけでなく、ごく自然にプロとしての仕事をまっとうする。笠井さんは、そんな滝川さんの姿勢を、「人間の生き方のプライドを持っている」と評する。
先述の鈴木さんも、自身のイベントのMCを滝川さんに依頼した経験から、番組を楽しみにしているという。
「イベントで場を仕切って、話す姿に、英治さんの〈もてなしの心〉を強く感じました。見ている人を明るく、楽しい気持ちにさせてくれるんです。MCは、そんな滝川さんの最大の魅力を存分に生かせるフィールドではないでしょうか」
東京2020オリンピック/パラリンピックが数か月後に迫り、今後ますますパラスポーツへの注目は高まることだろう。
「障害のある人もそうでない人も、たがいに尊重して、ともに歩める共生社会を実現したい。そのきっかけとして、パラリンピックに関わり、パラスポーツを盛り上げる仕事をしたい」という夢を持つ滝川さん。近いうちに、彼が活躍する姿を見ることができるかもしれない。
「俳優は魔法使いのような職業」だと感じている滝川さんが、それを手放す重大な決断を下したきっかけは、思いがけないことだった。
2020年1月11日に、東京都内の書店にて著書の『歩 ―僕の足はありますか?』のお渡し会が開催された。当日は、滝川さんと約2年ぶりに直接コミュニケーションをとれる機会とあって、昔からのファンを中心にたくさんの人々が来場した。