恐怖心や焦りが、役を演じる原動力
これまでに出演してきた2・5次元作品では、原作のキャラクターを表現するという絶対条件があるため、多くの制限がある。しかし黒羽さんはそのなかでも「ほんの少しのオリジナル」を模索していたという。
「原作ありきでやらせていただいているので、守るべきルールがほかの舞台よりもあると思いますし、決められた枠組みの中でできることを探していくのが2・5次元。
でも、その枠組みをはずれて成立させる楽しさというのもあるんですよ。そこが意外と感動を呼ぶこともあって。熱くないキャラクターなのに、ふとした瞬間に熱さを見せたり。そこで“素敵だな”って感じてもらえることがあるんです。常に枠からはずれてはダメですが、お芝居として成立して“こうしたほうが面白いはず”というポイントについては演出家さんと相談して、できるところを探しましたね。
どうしても生身の人間なので、キャラを超えて“ガーッといきたい”というところも生まれてくるんですけど、そこを我慢したり、我慢しなかったり(笑)」
今回の作品には、そうした制限がないだけに「楽しみですが、すごく怖くもある」と本音をチラリ。
「不安ですね。根本的に、僕はいろんなことにおいて自信がない。どちらかというとネガティブ人間なんです。でも、恐怖心や焦りというのが、役を演じるうえで僕のエネルギー、原動力になるんですよ。
人に“大丈夫だよ”って言ってもらっても、あまり信用しません。でも逆に“ヤバいな、マズいな”と思うから、頑張る力が生まれるんだと思う。最初から“大丈夫だ”と思っちゃったら“頑張らなきゃ、何とかしなきゃ”って気持ちが生まれてこないので。不安と闘いながら必死でやって、何とかなったときには“よかったぁ”と心底、ホッとしますね。パワーを使うような役が好きなので、ルキーニはやりがいがあります」
頑張りの成果を、観客以上に楽しみにしているのは本人かもしれない。
「僕はいつも、稽古場などでいろんな俳優さんを見て“カッコいいな”とか“うわー、すげぇな”とか思っているんですけど、いつか僕自身もほかの人から“あいつ、すげぇな!”って思われたい。そのためにはどうしたらいいか、いまものすごく考えてます(笑)。“すげぇ”って漠然としていますけど、いるんですよ、共演していても“なぜかはわからないけど、なんかすげぇんだよな”と思える人って。
この作品の稽古場にはそういう方々がたくさんいらっしゃるので、刺激を受けて成長したいと思っています。初めてルキーニとして帝国劇場に立つ日、僕はどうなるんだろう。カーテンコールで泣いちゃうかもしれないですね(笑)」
■ミュージカル『エリザベート』
「オーストリア皇后エリザベートの生涯を、彼女を愛した“死”=黄泉の帝王トートの存在を通して描いた、ウィーン発のミュージカル。日本では1996年に宝塚歌劇団が小池修一郎の潤色・演出で初演、2000年に東宝版が上演されて以来、非常に高い人気を誇っている。ルイジ・ルキーニ役は尾上松也、上山竜治、黒羽麻璃央のトリプルキャスト。東京公演:4月9日~5月4日@帝国劇場。その後、5月11日~6月2日@大阪・梅田芸術劇場メインホール、6月10日~28日@名古屋・御園座、7月6日~8月3日@福岡・博多座で上演される。詳しい情報は公式HP(https://www.tohostage.com/elisabeth/)へ
(取材・文/若林ゆり)