しかし、ここで声を大にして伝えたいことがあります。それは、「ひきこもり=犯罪者予備軍」では決してないということです。私どもは21年以上、カウンセリングを通して数多くのひきこもりの方々と関わってきましたが、他人を傷つける重大な他害案件に遭遇したことはただの1回としてありません。
実際、ひきこもりの方たちは、その場の空気を読みすぎる傾向さえあるほど繊細で、やさしくてまじめな人たちが大半です。私の体感としても、彼らが無差別殺人などを起こすなどとはとても思えません。登戸の事件はごくごくまれなケースと言って間違いないと思っています。
「ひきこもりの犯罪率」は高くない
ひきこもりに関して著名な筑波大学医学医療系社会精神保健学教授の斎藤環先生も、2019年7月9日号の『婦人公論』で、登戸の事件と元農林水産省事務次官の事件を念頭に、ひきこもりと犯罪の関係について次のように語っていらっしゃいます──。
「私が今回のことで強調したいのは、家庭内暴力の延長線上に、通り魔的な暴力があるわけではない、ということです。この2つは方向性がまったく違う。現在のひきこもり人口は、100万人規模に達しているという内閣府の統計があります。しかし、それだけ当事者がいながら、明らかにひきこもりの人が関わったという犯罪は数件しかない。とくに無差別殺人のような重大犯罪は今まで見たことがありません」
斎藤先生は最後に、「ひきこもりは決して犯罪率の高い集団ではない」と言い切っているのです。
しかし、斎藤先生のお話以上に説得力のあったのが、東京新聞の2019年6月6日の「こちら特報部」の記事です。「こちら特報部」では共同通信の記事データベースに当たり、殺人・殺人未遂の容疑者・被告で、ひきこもりと報じられたケースが何件あるかを調べました。その結果、1999年から2019年までの20年間で43件あり、これを年平均にすると約2件だったのです。
さらに、記者たちが警察庁のまとめた各年の犯罪情勢を調べたところ、殺人の件数は1999年に1265件、2003年頃に1400件を超えましたが、それ以降は減少傾向にあります。過去5年間では年間900件前後です。
ひきこもっている人間が起こした殺人の年平均2件という数字は、過去5年間の900件前後という全体件数のわずか0.2%でしかないことを東京新聞は証明してみせたのです。ひきこもりの人間が起こした殺人事件は全体のわずか0.2%──。ひきこもりが犯罪者予備軍ではないことを示す決定的な数字です。