うつ病、不安神経症、不眠症
心を蝕むのは、それにとどまらない。
精神科医で国際医療福祉大学大学院の和田秀樹教授は、外出自粛による経営悪化などがうつを招くと指摘する。
「お客さんが全然来なくなって来月の支払いができなくなり、うつになるのはコロナに限らずありえます。経営悪化や営業不振に悩んで自殺する人もいますから」(和田教授)
旅館でも、飲食店でも、売り上げが大幅に減ると資金繰りは苦しくなる。あらゆる業種で売り上げ急減の悲鳴が上がっており、緊急融資ですべて解決するとは思えない。
「終わりが見えないのがいちばんつらい。入ってくるはずのお金が入ってこないだけですごく不安になりますよね。中小・零細企業の個人事業主は給料も払わないといけないし、胃が痛くなるような状況にすでに追い込まれている。それでなくとも日本人は気が弱いとよく言われます。世界中で借金を返すために銀行強盗をする国って日本だけらしく、きまじめな国民性ゆえに心配です」(和田教授)
現場の声を聞くため都内のカラオケパブを訪ねると、客はひとりもいなかった。
80代の男性店主は、
「ひどいもんですよ。売り上げが8割減って、どうしようもないんで女房の指輪を売ってお金にしたんですが、購入時と比べて価格がめちゃくちゃ落ちていてがっかりしました」
こうした個人事業主はごまんといるだろう。追い込まれると、どのような病気になる可能性があるのか。
前出の和田教授は、
「うつ病も含め、不安神経症など気分の落ち込みにかかわる病気です。不眠を訴える人も出てきています。ほかに『不潔恐怖』という神経症があって、汚いと思うものに手を触れられなくなることがある。以前診察した患者さんはトイレ掃除ができないため便座が汚れきってしまい、腰を浮かせて用をたしていたそうです。いまマスクを奪い合う姿をみていると、ちょっとそうした病的なものを感じます。何に触るのも怖いという人もいます」
と説明する。
持病のある家族や高齢者と暮らす人は、外出先でウイルスをもらってこないよう気を配る。過敏な人も多い。
感染すると重症化しやすいとされる高齢者の精神状態はどうか。
老年精神医学が専門の前出・和田教授は「多くの高齢者は相当ビビりきっています」と明かす。
「スマホやパソコンなどを駆使できない情報弱者なのでテレビの情報ぐらいしか入ってこず、あおられ続けて不安なんでしょう。家族から外出しないように言われているケースもあるし、“社会全体が殺伐として雰囲気が悪いから外出する気になれない”と話す患者さんもいます」
しかし、自宅にこもりっぱなしの生活にはリスクがある。
「外出しないせいで歩けなくなり、認知症が進む危険性もある。日に当たらないと『セロトニン』という神経伝達物質が減ることがあり、うつになりやすくなってしまう。高齢者は若い人と比べて神経伝達物質が少ないから、外に出ないことでうつになるリスクが高いんです」と和田教授。
気分の落ち込みによって免疫機能が低下し、かえって感染症にかかりやすくなる側面もあるという。