志村さんが育ったのは東京都の東村山市。

 うちのほうは小麦粉がとれるんで“手打ちうどん”が名物なんですよ。冠婚葬祭、正月。親戚が集まると必ず、手打ちうどんなんです。だから手打ちうどんが作れないと、嫁としては一人前じゃないんですね。

 そういうときは、おふくろが勝手口の裏で、小麦粉をといてから、ずっと足で踏んでましたね。踏まないとコシが出ないといって。オレも手伝うんだけどね。体重が軽くて「だめだ」とかいわれて。親戚の子供をおんぶして踏んでた(笑)。これをゆでて、皿にのっけて。うちのほうではだしというか、ナスとか天ぷらとかと一緒に汁につけて食べる。うまいんですよねえ。

 志村さんが“おふくろの味”で次にあげたのが「厚揚げ」だった。

 これはご飯のおかずにも、酒の肴にも合うんですよね。しょうゆと砂糖でただ煮込んだだけ。それも、おふくろの味でしか出せないんだなあ。すっごいシンプルなんですけどね。自分でも作ったんですけど、「なんで、おふくろの味にならないんだ?」。

 聞いたら、その厚揚げを1回、湯通ししなきゃいけないんですよね。で、1度お湯を捨てて、目分量でちょっとお湯としょうゆ、砂糖を足すんだけど。オレがやるとその味が出ないんだよねえ。おふくろも、まったく目分量なんだけど、いつも同じ味が出る。ほんと不思議なんだよねえ。

 やがて「おふくろの味には、歴史あり」へと……

 子供のころは、常に「かわいそうだな」というのがありましたねえ。おふくろを見て……うん。いつも早く起きて、飯を作って、農業やって、昼戻ってきて、また出かけて。夜はまた晩飯を作って、後片づけをして、洗濯して、最後に風呂に入る。

 子供のころのおふくろって、ずっと動いている……という印象しかないですね。男尊女卑というわけじゃないけど、昔はそういうのが普通でしたけどね。

 で、昔の家らしく、砂糖とかをもらうと高価なもんだっていうんで、おばあちゃんがどっかにしまって管理しているんですね。それを、おふくろがもらいに行くんだよね。小麦粉を焼いてしょうゆに砂糖を入れてつけるとおいしいんだけど、ばあさんが、じいちゃんにいいつけるんですよね。「無駄な砂糖を使ってる」と。それを今度はおやじにいいつける。すると、おやじがおふくろを殴るんですよ。そういうのを見てるから……。

 おふくろも農家の出なんだけど、おやじが死ぬまでは黙々と働いてた。おやじが死んでからは、おふくろもやっと自分の時間を作って、旅行をするようになったけどね。