シェアハウスで起きるトラブルの元は「温度差」
母子SHを選ぶ女性には2つのタイプがあると葛西准教授は言う。
「行き場がなかったからそこに住む人と、誰かと住みたい人です」
トイレや水回りを共有しつつ暮らすためトラブルが発生することも。その原因を、葛西さんと秋山さんは「温度差」と口をそろえる。
「共同生活が苦手な人や、そりが合わないメンバーもいます。垣根が低い人は普段からほかの人に頼ったり、任せてしまう。すると“なんで自分だけが”となりかねない。自分でできることは自分でしたいし、寄りかかられてもしんどい、という意見はけっこう聞きます」(葛西准教授)
「子ども同士の関係や子育て感覚の違いもあります。子どもたちは集まれば遊びたくなります。午後8時までに寝かせたい母親もいれば、気にしない母親もいます」(秋山さん)
ほかには、居室が狭かったり、期限つきなどの制限があり、住み続けたくても出ていかざるをえなくなるという。次にいい住宅が見つかるか、となるとなかなか難しい問題だ。
ずっと住むのではなく、ステップアップの場
一方、メリットもある。
「都内のシェアハウスには、地方から仕事を求めて来る人もいます。知らないところに住むのは不安があるということでそこを選ぶ。先輩ママがいたり、仲間がいたり、コミュニティーもあります」
という葛西准教授は、
「新たな視点としては災害時のメリットです。“窓の補強を大家さんがやってくれたり、みんなで集まれたから安心した”、自分に何かあったときに安心、というママたちの声も聞きました。また、普段でも、もし事故に遭ったり、急に入院したときも頼れる人間関係がないとすごく怖いけど、ここなら頼れる人もいる、と。コミュニティーがセーフティーネットとして役立っていると考えられます」
大人と話せることをメリットにあげた母親もいたという。
「家では子どもと一対一、職場でも人と会話がない。仕事でも家でも大人と話さないで毎日を過ごしていたら、孤立化し、イライラして子どもに手を上げてしまうこともありうる。それを防ぐことができるのも大きいのかなと思います。シェアハウスでは悩みを共有できますし、自分がシングルマザーということを隠す必要もないので」(秋山さん)
とストレス発散に有効な母子SHのメリットをあげる。
「ここに入らなかったら虐待していたかも……」と胸の内を明かした母親もいるという。
決していいことばかりの母子SHではないが、秋山さんはこう意義づける。
「ずっと住むのではなく、ステップアップの場。精神的にも経済的にも基盤を整えて、次のステップに行っていただく。NPOとしては、しっかりと母子の居住を支援してくれるプレーヤー(事業者)を増やしたい。そのための支援ができればいいと思います」