また、先月31日、滋賀県東近江市の病院の元看護助手の西山美香さん(40)が、やり直し裁判(再審)の判決で、無罪を勝ち取ったばかり。検察側は上訴権を放棄して西山さんの無罪が確定した。当初の裁判では、捜査段階で犯行を認めたとされる自白調書などに基づき、懲役12年の大津地裁判決が確定。西山さんは無実の罪で12年も服役するハメになった。
誤認逮捕のうえに誤認判決が連なる失態。司法制度そのものが、よってたかって生み出したかのような冤罪。
前出・女子大生も手記で、
「逮捕直後、もし勾留されたら取り調べに耐え切れずにやっていないことを認めてしまうかもしれないという不安な気持ちがあったのも事実です」
と告白している。
その“不安な気持ち”は、逮捕前の取り調べで、取調官に嫌というほど注入されていた。女子大生は最初の取り調べから一貫して容疑を否認した。だが、刑事は柔軟な捜査を放棄していた。「犯人を捕まえてください。こんなの何の解決にならない」と訴えても、取調官は「犯人なら目の前にいるけど」と、耳を傾けることはなかったという。
そればかりか「タクシーに乗った記憶ないの? 二重人格」「罪と向き合え」と決めつけられ、就職先が内定していたことにつけ込み、「就職も決まってるなら大ごとにしたくないよね?」と脅迫まがいの言葉まで投げつけられたという。
早く罪を認めると、早く出られる?
女子大生は、取り調べが終わるたびにすべてを日記につけ克明に記録していた。それをもとにした手記には、
「君が認めたら終わる話」「懲役刑とか罰金刑とか人それぞれだけど早く認めたほうがいいよ」「ごめんなさいをすればすむ話」「認めないからどんどん悪いほうへ行っているよ」「今の状況は自分が認めないからこうなってるんだ」と、次から次に思考をうばい、追い詰めていく様子が詳細につづられている。
前出・牛田弁護士は、
「警察も冤罪をつくろうと思ってやっているわけではないと思うんです。
いちばんかわいそうなのは誤認逮捕された人です。警察は自分たちが逮捕した人が犯人だという気持ちは強いと思うんですが、それで進めてしまうと本当の犯人が捕まらないリスクがどんどん高まってしまう」
と問題視する。
牛田弁護士は'16年に誤認逮捕され、起訴された中国籍の会社経営者の弁護を担当したことがある。ここで救ってくれたのは、タクシーのドライブレコーダーの映像だった。女子大生のケースとは打って変わり、
「逮捕した人が犯人ではないことがわかる証拠だったんです。そういう客観的な証拠があったにもかかわらず、逮捕までの間、それを集めず誤認逮捕した。いま振り返っても、捜査のずさんさはあったと思います」
この事件では、逮捕されてから100日近く身柄を拘束された。