新型コロナがパンドラの箱を開けた

 それでも小林さんたち支援者たちは屈しない。週末にはネットカフェを出た若い女性からのSOSも受けた。

「ネットカフェ暮らしだった若い女性は、前日から何も食べてないというから、ファミレスでご飯を食べてもらいましたが、『ジュースが飲めるのがうれしい。甘いの久しぶり』って。『もう首吊るしかないと思ったんですけど、私も人間なんですかね、生きたいと思ってしまったんです。それで連絡しました』と言われました。

 こんな思いを若い人にさせていること、こんなことを言わせてしまってることを、私たち年長者は心底、恥じなくてはいけないと思います。この過酷な日々がいつか過ぎたら、日本の人々が異なる価値観を持ち、これまでと違った形の社会形成を始めてほしい。

 そうならなかったら日本人に希望などありません。自己責任で弱者を見捨てることも、生産性で人の価値をはかることも、弱者同士を争わせる既得権を持つ者たちが責められることもなく、権力や経済力の上にあぐらをかき続けるさまも、ぜんぶ霞んで消えればいい

 本当にそうだ。

 この新型コロナウイルスを生き抜くには、自分だけが助かればいい、では成り立たない。今は会えない人たちとも心の手を結び合い、物心共にシェアしていく以外、この時代を築いていくことは無理だ。自己責任論は最も忌むべき敵だと思う。

ホームレスたちへの様子を見回るため、夜回りもしている
ホームレスたちへの様子を見回るため、夜回りもしている
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「コロナ禍を転機に、福祉を正常化させましょう。今後はネットカフェに暮らすような人がいない社会にしましょうよ」

 と、小林さんは言う。

逆を言えば、新型コロナウィルスがこれまで行政が開けようとせず、私たち支援者も開けられなかった“パンドラの箱”を開けたんです。ネットカフェに暮らし、これまで毎日うつらうつらとしか睡眠は取れず、医療にもかかれず、節約のためにシャワーも毎日は使わず、カップラーメンばかり食べながら足も伸ばせずにいた人たちが、ふつうに人間らしい暮らしができるようになれば、禍も福と転じます。

 社会は、少し救われる。もっと早い段階で、支援しなくてはいけなかったことなんです。行政も、前線にいる都の職員も、福祉事務所のスタッフもいまは大変だと思う。でも、それは、これまでのツケが一斉に回ってきただけだから。もう、後戻りをしてはいけない。同じ過ちを繰り返したらダメ。社会もそうした人々をお荷物だと思わないで、一緒に生きていける未来を模索するようになってくれたらいいです」

 災い転じて福となす、にしよう! と必死に頑張る小林さんたちの活動は、いま、これからどうなるんだろう? と不安におびえる私たちに、こんな言い方はおかしいかもしれないが、勇気のようなものをくれる。

 人のためにいま動く人がいる。それを知るだけで少し安心し、よし、私も頑張ろうと思える。共に生きる方法を探れる。なお小林さんたち『つくろい東京ファンド』はホームページに、“相談受付フォーム”を開設しているのと同時に、広く寄付金を募っているのでチェックしてほしい。クレジットカードも使用可能だ。

<取材・文/和田靜香>