だいたい職務経歴書なんて、作ったことがある人ならおわかりだろうが、そう簡単には作れない。もちろん、これからやる仕事に向けた大切なものでもある。だからこそ、それはビジネスホテルに入ってから、ゆっくり本人に作ってもらえばいいじゃないか。
「そうした間にも、事務所の電話に応対するスタッフの声が面談室にまで聞こえてきていて、『ネットカフェ』という単語が繰り返し何度も聞こえてきましたが、相談に来ているのは私たちだけでした。おそらく、厳しい条件に予約の段階で諦めてしまう人も多いのではないかと、推察しました」(小林さん)
《奪い合うと足りない、分け合うと余る》
しかし、とにかく今、感染を広げないために都が借り上げたビジネスホテルに泊まる方法はほかにないんですか?
「市や区の生活保護の窓口や、生活困窮者自立支援制度の窓口に行くことになりますが、自治体ごとに格差があります。きちんと対応するところではビジネスホテルに入れますが、例えば大田区や町田市であった例ですが、隣が神奈川県なので『あなたは神奈川から来たんでしょう?』と追い返したそうです。
また、ある区では区議の方が申請者に同行して行ってもビジネスホテルを提案しない。おかしいじゃないか?と区議の方が抗議すると、『うちの区に来れば個室に入れるからと、無料低額宿泊所から逃げてきた人が申請に来て困ったから、ビジネスホテルの件はすぐには出さないことにしている』と言ったそうです」(稲葉さん)
それじゃ、もう、どこに行けばいいんですか? ネットカフェにいた人たちはどうしたんでしょう?
「正直、4000人いたネットカフェの人たちの多くがどこに行ったのか、よくわからないんです。路上生活になったり、他県に移動した人もいるはずです」
小池都知事はこの実態を知っているんだろうか? せっかくビジネスホテルを借り上げたというのに、現場ではそれを出し惜しみして使わせない。小池知事は知っていて放置しているんだろうか?
「これじゃ福祉とは呼べないですよね。私はただただ、これまで頑張ってきたのに力尽きて頼ってきた人たちに『大変でしたね』のひと言も言えない福祉関係者が情けなくて悔しくて、涙が出ちゃうんです。まるで『勝手に困んなさいよ、知らないわよ』と、もう後がない人に言わんばかりで。
自分が相手にしているのが『命』だってこと、ひとりの『人間』だってことにこれだけ鈍感になれるのはすごいことです。おそろしいことです。当事者だけでなくて、横に座って聞いている私もダメージが大きすぎて、力を奪われます」(小林さん)
本当にそうだ。今、世界の医療従事者がひとりでも多くの命を救おうと、懸命に働いている。その命と、この命は同じ命だ。どうして命を、福祉の現場で、東京都はないがしろにするんだろうか。
命はかけがえのないもの。東京都は早急に是正してほしいし、厚生労働省もこの件を看過せず、しっかりとした指導をしてほしい。命に待ったはない。
こうしたことを書くと、すぐに「自己責任だ!」と言い出す人がいる。それは前回の記事に対してもあった。でも、実際に自己責任だとして一切の援助を止めたらどうなるのか想像してみてほしい。誰も失敗できなくて毎日を怯えて暮らし、信頼は損なわれ、憎しみ合い、奪い合い続け、社会は地獄になる。
誰かがツイッターで書いていた。《奪い合うと足りない、分け合うと余る》。私たちは分け合うべきだ。そうした気持ちで、助け合いながら生きていきたい。
ちなみに、『つくろい東京ファンド』はじめ、支援団体がコロナ災害から命と生活を守るための情報をまとめているサイト「新型コロナ災害緊急アクション」(https://corona-kinkyu-action.com/)がある。困っている人に教えてあげてほしい。
〈取材・文/和田靜香〉