イヤホンは“カップル付け”
実は、彼らのゲーム実況には、ほかの作品もある。
続いては、絶望的な状況からあらゆる手段を使って生還を目指すサバイバルホラーゲーム『バイオハザード』。序盤、ゾンビに襲われて倒れているキャラに対し「たそ?(誰?)」とつぶやき、襲ってきたゾンビには「まなこが白い!」「白眼(しろまなこ)のやつじゃ!」「恰幅がいいのう」と2人で驚く。
さらに、ゲームを進めるうえではまったく関係のない、背景として貼られている女性のポスターに注目し「姫君の春画じゃ!」「松明で照らせ!」と、テンションが上がる。挙句、天井からぶら下がってきたゾンビ(?)の手元に頭を持っていき「まるで“てもみん”(実在するマッサージ店の名称)じゃな」と和む。
ほかにも、サッカーゲームシリーズ『ウイニングイレブン』は呼び方が「蹴鞠」。「横笛(ホイッスル?)が鳴り響き」「守りびと(ゴールキーパー?)が誠に上手いわい」など、どのようなゲームでも彼らの手にかかれば、あっという間に“すゑひろがりずワールド”が展開されるのだ。
そんなすゑひろがりずのYouTubeチャンネルに対し、ネット上では「ひたすら古語が出てくるのすごい」「これ台本無しの一発撮り? 面白過ぎない?」「ひー、お腹痛いでありまする」「あつ森の実況で涙出るまで大爆笑しっぱなしだったの初めてだ」「世界一怖くないバイオハザード実況」「つらい世の中だけど、YouTubeのすゑひろがりずを見ると癒される」など、賞賛の声が後をたたない。
古語でゲームの世界を“すゑひろがりずワールド”に塗り替えるさまには中毒性があり、コメント欄は「いと趣きあり好ましい」「いみじう面白し」「此の動画を皮切りに局番登録者が増えておるご様子、心底よりお祝い申し上げ奉りまする」等々、影響を受けた語り口になるファンも続出する。
また、まるでネタを見ているような充実感だけでなく、コンビ仲のよさにほのぼのとするファンも多いようだ。初期にはそれぞれ別々のイヤホンを使用していた2人だが、最近は(同じ場所で収録しているものでは)ひとつのイヤホンを片方ずつ使用し、まるでカップルかのように密着して座っている。
とっさのゲームの展開にも阿吽(あうん)の呼吸で瞬時にボケと突っ込みを入れ合うコンビの仲睦まじさをほほえましく思うファンたちが、その様子をキュートなイラストで再現し、SNSで多数公開している事実も、彼らへの注目度の高さを示している。
2人の個性が強すぎるゆえ、ゲームの本筋のストーリーはまったくわからない(!?)代わりに、ゲームに詳しくない人でも「ゲーム実況」とはまったく別の楽しみ方ができるのも魅力。逆に、ゲームに詳しい人からは「なぜそこに行く!」などとツッコミどころ満載。だからこそ、幅広い層に愛されているのかもしれない。
現実世界では、今もつらい状況が続く。しかし、ゲームという異空間において日本人の原点である和語を巧みに使いこなし、平和なひとときを生み出すすゑひろがりずの世界観は、多くの人の心を癒している。自粛ストレスの緩和にもってこいのコンテンツといえるだろう。
(取材・文/松本果歩)