B氏の素性を調べ出すA子さん
「私たち夫婦は深い信頼関係で結ばれている」と胸を張るA子さんが、なぜ異性をやすやすと受け入れることになったのか。真相はこうだ。
「私には中学生になる息子がいるのですが、息子と生まれてくる赤ちゃんに差をつけたくなかったんです。自然に妊娠して授かっている長男と同じように、自然に妊娠したかった思いがありました。
主人のことを考えると、性交渉を行わないで人工授精するほうが適していると思います。夫を裏切ることになっても、生まれてくる子どものことを選んだということです」
夫に疑いの目を向けられることなく、B氏とのセックスは10数回に及んだようだ。
A子さんには、いつ妊娠しても夫に告げられる土壌もあった。それは日常的に夫とセックスをしていたこと。妻が夫以外と性交渉するなんて、夫もゆめゆめ想像しないはず。
A子さんは夫に疑心を抱かれるとはいま思っていないそうだが、精子提供者のB氏に対し、A子さんが疑心を持つ出来事があった。再びA子さんの話。
「6月に妊娠がわかった後も、赤ちゃんについての連絡を、B氏とクライアントとしてとっていました。ところが11月ごろ、急に彼のLINEの態度が粗暴になったんです。“は? お前何考えてんの?”と口調が荒くなってきて。生まれてくる子どもの父親ですから、彼がもし犯罪者だったりしたら取り返しがつかない。それで、彼のことを調べてみようと思いました」
A子さんはまずB氏の会社の社員寮で聞き込みを行い、B氏の名前を調べた。そこでB氏が実は中国人であるという疑惑が浮上。次に調査会社に依頼し、その結果、B氏の本名、国籍、学歴、家族構成を把握した。
「B氏には、お互い探り合わない約束なのに、会社にまでなぜ連絡するんだ! と怒られました。でも、そもそも初めの時点での話がウソだったことが問題なのです。奥さんがいるのを知っていたら、相手の人間関係を壊したくないと思っていたので、精子提供は受けていなかったはず。一流企業に勤めていることを悪用して人を信じ込ませたわけです。彼には謝罪や説明を求めましたが、まともに取り合ってもらえず今に至っています」
伝えられていた相手の素性に偽りがあったことを、A子さんは問題視する。
一方、B氏の言い分はというと……。
「そもそも初めから匿名での精子提供という約束で、お互いの個人情報を詮索しない約束でした。もちろん会社についても、私は何も話していません。初めて会ったときは、ケータイと財布しか持って行っていませんし、会社や家庭関係のことなんて言う必要がないんですよ。学歴については『国立大学卒』とだけ伝えています」
実際、B氏は結婚していたのだろうか。
「妻や恋人はいるかと聞かれましたが、プライベートについて伝える必要はないので。ただ、妻はいます。後にA子さんが妻のフェイスブックのメッセージに連絡をしたことで、精子提供をしていたことは知られてしまいました。妻と私の間に子どもはいません。こんな状況でも離婚するつもりはないと言ってくれてます。
経歴をはっきり伝えなかったことに関しては罪悪感もありますし、後悔もあります。国籍についてはそもそも聞かれてすらいないんです。もし聞かれていたら言いましたよ」
そればかりかB氏は、
「むしろ私は彼女に脅されているんです」
という主張を始めた。