大スター・松田優作さんとの出会い
卒業後は、養成所で指導を受けていた殺陣師・宇仁貫三さんに弟子入りし、宇仁さんが率いる剣友会『K&U』へ。来る日も来る日も殺陣やスタントの稽古を重ねた。
剣友会には、時代劇などでスターと斬り合う、いわゆる“斬られ役”の仕事や、乱闘シーンなどを演じるチンピラ役のオファーが連日のように入ってくる。寺島の記念すべきデビュー作は、ドラマ『太陽にほえろ!』。簡易宿泊所にいる「その他大勢のチンピラ」の1人だった。
「本物の撮影現場は初めてだったから、現場の熱気をビシバシ感じて興奮したなぁ。こういうドラマの仕事は、撮影の前日に制作会社から事務所に依頼が来ることが多い。で、事務所で当番係をやってる先輩が誰を割り当てるか決める。当時、剣友会には20人ほど先輩がいたので、顔と名前を売るために用もないのに事務所に顔を出していました」
スタントマンとして現場に赴くこともあった。高所から飛び降りたり、坂を転がり落ちるといった危険を伴うシーンには経験と訓練を要する。そのため、“吹き替え”といって、スタントマンにスターの衣装を着せ、顔が見えないようにして撮影するのが一般的だ。
吹き替えの仕事をしながらも、“いつかはスターに”という野心をみなぎらせていたのではないか。そう尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「それが、当時はそうでもなかったんだよね。殺陣や吹き替えの仕事にやりがいを感じていたし、スタッフと役者の間のようなポジションが楽しかったんです」
剣友会の先輩にあたる二家本辰己さん(67)によれば、当時から寺島は眼光鋭く、現場でも存在感を放っていたそうだ。
「テラはランクが違った。スタントでは、みんなケガが怖いからセーブしながらやるんですが、あいつは思い切り転がり落ちるから、よくケガしてましたね。“骨にヒビ入っちゃって”なんて苦笑いしながら手を三角巾でつって稽古場に来たこともありました」
このころ、転機となる出来事があった。それが松田優作さんとの出会いだ。寺島は、二家本さんが殺陣を手がけていたつながりで、松田さんが初監督を務めた映画『ア・ホーマンス』にヤクザの組長の手下役として出演。二家本さんは、「役の心情や背景まで考えて演じていた」と評す。
そんな寺島を松田さんも見逃さなかったのだろう。寺島が振り返る。
「カットの声がかかると、優作さんが駆け寄ってきてくれて“お前、いいなぁ”って肩を叩いてくれて。それに、優作さんは、大スターなのにスタッフみんなに気を配っていて、すごく面倒見がいいんです。男として、人としてカッコよくて、憧れましたね」
松田さんと過ごした日々の思い出は、寺島の心の宝箱に今も大切にしまってある。
「稽古場の洗面所でうがいをしていたら、優作さんに静かに叱られたことがあったんです。俺のうがいの仕方が下品だったんだろうね。“稽古場は神聖な場所。そういううがいなら、トイレでやってこい”って。でも、優作さんはそれだけでは終わらない。その後、飲みに連れていってもらったときに、“さっき言った意味、わかるか”って聞いてくれた。“俺のことを本当に思ってくれているんだな”って感じて、ジーンとしましたね」