すぐにウソだと判明してしまう“説明”
呆れて驚いていたら、6月8日、谷川さんが、前回もお話を伺った一般社団法人『つくろい東京ファンド』の稲葉剛さんや小林美穂子さんらと共に、利用者への謝罪と再発防止策などを訴える抗議文を提出し、説明を聞くために新宿区役所へ行くという。著者も同行させてもらったのだが、これがまた呆れる展開だった。
新宿区役所には新聞記者らが大勢集まっていて事態の深刻さを感じさせたが、のんびりとした口調で、新宿区福祉事務所の部長がまずは語った説明はこうだ。
「私どもが東京都からいたいた通知でございますが、こちらの方、一律にどなたでも(宿泊)延長ということではなく、真に今後の行き場所がない、生活が困ってる方に対して、住居の確保に代えてビジネスホテルの提供をという通知だったと受け止めてございます。
こちらの趣旨を踏まえまして、私どもといたしましては、出て行くことが趣旨ではなく、一度この機会にぜひ私どものところにご相談にいらしていただきたいということを打ち出すために(チェックアウトの通知を)お配りをさせていただいたということですが、みなさまから多々ご意見をいただきましたところ、少しご案内につきまして説明が至らない点がありましたと深く反省をしているところです」
言葉は丁寧だが、自分たちのしたことはあくまでも「説明不足」であり、決して「追い出そうとした」わけではないと言い逃れをしているように聞こえた。第一、家がなく、真に生活に困っているからこそ、緊急避難的にビジネスホテルに泊まっていたのだ。何をかいわんや、だ。
しかも、この説明、ウソだとすぐに判明してしまう。
谷川さんや小林さんらがこの日の朝、ビジネスホテルを追い出された2人の方からSOSを受け、新宿区の福祉事務所に同行していた。SOSを発信した2人は29日に新宿区の福祉事務所の窓口に行って「ホテルにもう少し泊まりたい」と相談をするも、「新宿区では6月1日のチェックアウトで出ていただかないと困ります」と断られて追い返され、1日からこの8日までさまよっていたという。
「その方たちは、朝から何もめしあがってないということで、相談に入るまでにおにぎりとパンとコーヒーを食べてもらいました。炊き出しから炊き出しに渡り歩いてなんとか飢えをしのいだとおっしゃっていて、満足に食事もできていませんでした」(小林さん)
本来なら7日まで、いや、その後さらに東京都はネットカフェに営業停止を要請したため、6月30日まで宿泊期限を延長していて、まだホテルに滞在して今後の生活再建に向けて歩みだしていけるはずだった人たちが放り出され、飢えに必死に耐えていたことになる。
しかし、これに対して、今度は福祉課の課長が説明したのは、
「食事にお困りになるような状況であれば、(新宿区では)5月中に74名の方を生活保護につなげてもおりますので、そういった方はご相談いただいた時点で必ず生活保護申請におつなぎして、ホテルの方を含めてその後の支援をしております」という、いや、だから、それをしてなかったのが問題だって言ってるのに、取りつく島もない回答だ。
さらにまた、部長も「私どもの説明が足りなかったんじゃないか」を繰り返す。
たまりかねて稲葉さんが「172人もの人が新宿区に来て、うちだけが大変だ、早く手放したかった、そういう雑な判断をしたんじゃないですか?」と問うと、
「いえ、そういう思いではなく、東京都の通知を踏まえて、困ってる方には延長をしますということで」と課長は同じ言葉を繰り返す。話は同じところを行ったり来たりだ。
なんで、新宿区だけがそんなことをしたのか、理由がわからない。そもそもほかの区では自動的に宿泊延長をしていて、新宿区だけが独自の判断で「困ってる方は延長」などと言って全員を追い出していた。
それでも課長は何度も何度も、
「6月1日にチェックアウトしていただいて、生活にお困りの方には相談に来ていただきたい。そういった方を把握して、次の支援につなげたいということでご案内していました」
と、繰り返す。いや、だから、相談に行った人を追い返しているのにって何度も言ってるでしょう!と叫びたくなった。