音楽を愛し、人々に愛される存在
同協会に所属し、ビリー・バンバンの『また君に恋してる』などを手がけた、音楽プロデューサーの末崎正展さんにも話を聞くことができた。
「現在の音楽シーンでは誰でも“音楽プロデューサー”を名乗れるみたいな印象があるかもしれませんが、服部先生はよく音楽プロデューサーには“音楽マイスター(職人)”を目指してほしいとおっしゃっていました。
あれほどのキャリアをお持ちになりながら権威的じゃない。周りを気楽にさせてくれる気配りが素晴らしかった。何時もチャーミングで、音楽を愛する者、誰に対しても“愛と寛容”の人でしたね」
彼の穏やかで気さくな人柄は、10代のころのフランス留学で培われたものだという。
「食事マナーやファッションに精通していました。世界中のいいものをご存じで本当に勉強になりましたね。特にお気に入りだったのはイギリススタイル。あるときロンドンのブティックに入ったら、ばったり会ったことがありました。ジャケットを試着しながら、“僕と同じものは買わないでよ!”って笑っていましたね」(音楽事務所関係者)
ダンディーな紳士であった反面、こんなかわいい一面も。
「甘いものが大好きでしたね。特にお気に入りだったのは老舗の甘味処『甘味おかめ』のあんみつとおはぎ。たびたびマネージャーに頼んで自分の分とおすそ分け用と複数買ってきてもらっていました。ほかには大好きな赤ワインを嗜んだり、気分がいいときには、素敵な香りの葉巻をお吸いになってましたね」(同・音楽事務所関係者)
また、意外な趣味も持ち合わせていた。
「とにかくマージャンが好きで、マージャンに付き合ってくれた人との仕事を優先してやってもらえたという話があるくらいです(笑)。谷村さんや、松山千春さん、山下達郎さんたちともよくやっていたようです」(前出・音楽ライター)
なかでも山下は服部さんのことを深く信奉していたようだ。
「達郎さんはもともとフランス近代の作曲家が好きだったのですが、その要素を自分の音楽に取り入れるのは難しいと感じていたそうです。しかし、服部さんとの仕事で納得いくレベルでの弦アレンジが可能になり、何度も仕事を頼むようになりました。
'93年にフルオーケストラのアルバムを作ったときは、ジャズの大物にアレンジをお願いし、2週間もかけてニューヨークでレコーディングしたんですが、帰りの飛行機の中で突然、“やっぱり服部先生とやりたい!”と言いだして、急きょレコーディングをやり直したほど。達郎さんは、服部さんが指揮するオーケストラでライブをするのが夢だったそうです」(同・音楽ライター)
そんな服部さんには、ともにエンターテイメント界で闘ってきた古き“同志”がいるという。