養育費の減額は2か月の期間限定を条件に
楓さんが42歳のとき、次女を出産したのですが、すでに高齢出産の域。さらに18年ぶりの分娩なので産後の肥立ちが悪いだろうということは産前にわかっていました。育児休業給付金の支給期間は最長1年ですが、楓さんが職場に申請した育休の期間は1年でした。当時、次女は生後5か月。当初の予定では楓さんの職場復帰は7か月先だったのですが……。
「それじゃ、復帰するまでは大目に見てくれるってことですか?」
楓さんはつぼみの言葉に便乗する形でそう提案したのです。楓さんの育児休業給付金と手取りの差額は毎月6万円。職場に復帰した場合、つぼみへ養育費を満額支払っても家計は赤字にはならない算段です。とはいえ予定通り、7か月先に復帰した場合、つぼみが損をする金額は35万円(毎月5万円×7か月)なので、つぼみが目先の札束に目がくらみ、35万円欲しさに突っぱねる可能性があります。そのため、楓さんは養育費の減額は2か月の期間限定だと伝えました。
つまり、2か月後には職場へ戻り、給料を得て、養育費を元に戻すと約束したのです。産後7か月ではまだ心身ともに回復しきっておらず、日常業務に戻るのは不安ですが、背に腹は変えられません。
「本当に大丈夫なの? 結局、仕事ができなくて、また泣きついてくるんじゃないの?」
つぼみはまだ楓さんの言葉を信用できずにいましたが、当時はまだ康生と長女の向日葵が自宅待機の状態。そして平日の日中は楓さんの母親を呼び寄せ、康生と長女、そして母親が協力すれば、乳飲み子の次女の世話をすることができる。そう伝えたところ、つぼみはようやく楓さんの提案を受け入れたのです。
6月上旬のタイミングで康生や長女がいつ職場に戻ることができるのかは、まだ不透明でした。楓さんが無理をする以外に方法はなかったのです。このように楓さんの献身により、家族はとりあえずの急場はしのぐことができたのです。
離婚経験者は無理に無理を重ねる傾向がある
ここまで楓さん夫婦がコロナショックにより家計が赤字に陥り、貯金を使い果たし、前妻を説得することで赤字を解消するまでの流れを見てきました。今回のケース以外にも経済的に追い詰められたステップファミリーからの相談は絶えません。コロナ騒動から半年。今後も賞与の支給停止や取引先の倒産、売掛金の回収不能などで金銭的な苦境に陥るケースの増加は続くでしょう。
ところで再婚や養子縁組、子の誕生などで離婚時に決めた養育費、慰謝料、解決金等の支払に窮しているという相談は突然、発生したわけではなく、今までも一定数、存在していました。こちらも今後、さらに増加することが予想されます。
離婚経験者は誰しも大なり小なりのトラウマを抱えています。そのため、どんなに苦しくても臭いものに蓋をし、無理に無理を重ねる傾向があります。例えば、なけなしの貯金をつぎ込んだり、消費者金融で借金をしたり、さらに親戚や友達に金策を頼んだり……。手持ち資金がゼロ、借金まみれで親戚、友人から縁を切られた状態で養育費、慰謝料、解決金等の見直しに取りかかるのでは遅すぎます。失った預貯金や融資時の信用、そして親戚や旧友の仲は戻ってきません。
家族構成や経済状況の変化で支払条件を緩和することは法律で認められてるのですから、下手に強がらず、できるだけ早く、頭を下げてしまうのが長い目で見た場合は上策です。
露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/