歌で平和を届けたい
昨年に続いて今年2月、堀澤はNHK大河ドラマ『麒麟がくる』の劇中曲をレコーディングするため、ロサンゼルスに滞在していた。
「向こうでも『ジャパンチャンネル』で、ちゃんと日曜日の夜に大河ドラマを見られる。滞在中は、毎週日曜日になると、ジョンさんの自宅で鑑賞会をやりました。新たな作曲に役立てるため、ジョンさんは通訳の助けを借りながら、大河ドラマを見ていました」
堀澤は、劇中曲『美濃〜母なる大地』での作詞と歌唱、『旅へ』という曲でヴォーカリーズ(歌詞を伴わずに母音のみで歌う歌唱)を披露。
さらにドラマ終了後に放映されるミニ番組「大河ドラマ紀行」でも、『美濃〜母なる大地』をヴォーカリーズで歌った。
「ジョンさんの楽曲は、世界観がとてもはっきりしているので、歌うときに悩まなくてすむ。情景が詳細に音楽にちりばめられているので、それを受け止め、遜色がないよう歌で伝えるのが私の役目。心情的なものをトーンクオリティー(声の音色)で表現しました」
声楽を学び、歌手を目指しながら1度は声を失い、独自のメソッドを編み出してきた。念願のハリウッドでのレコーディング、メジャーデビュー、そして大河ドラマへの大抜擢。
国民的ドラマから流れる彼女の歌声に誰より耳を澄ませ聴き入ったのは、今は亡き堀澤の祖父かもしれない。
「小さいころ、いつも大好きだったおじいちゃんのひざの上に乗っかって、大河ドラマはもちろん、『水戸黄門』や『遠山の金さん』などの時代劇を見ていました。おじいちゃんは能や舞を嗜む人。その影響で私は、武道、合気道、古武術などにも惹かれていきました。だから、武士も好きなんですよ。
もし、おじいちゃんが生きていたら目を細めて喜んでくれたでしょうね。今でも、ときどき、ふと空からエネルギーをもらってるんじゃないかと感じることがあります」
新型コロナウイルス感染拡大により、世界は一時、大混乱に陥った。堀澤は、そんなときだからこそ「歌を通してできることが増えていく」と前を向く。
「感情がマイナスなほうに引っ張られているとき、好きな音楽を聴いて気分を変えたりしますよね。音楽って一瞬で人の感情をプラスに変える力があると思うんです。
だから今後も、音楽という文化を通して、日本と世界をつなぐような活動をさせていただきたい。それが平和につながるような。そして、日本全国の方に歌声を届けたい。ライブなり、映像なり、どういう形でも聴いていただいて、ほっこりしたり、緩んだり、音楽によっていい変化がもたらされるといいなと思います」
堀澤は、'17年から「歌唱奉納」という無償の活動を行っている。全国の神社に出向き、アコースティックギターの伴奏で歌を奉納するというものだ。これまで、諏訪大社、戸隠神社、鹿島神宮、出雲大社などで実施してきた。
今年も6月に伊勢神宮で行う予定だったが、コロナ禍で秋に延期された。
「先人の方々が想いを捧げてきたその場所で、歌わせていただくことはとても特別なこと。今、みなさん大変な中で、平穏な日々が再開することを願っています。そんな祈りを歌で捧げたいと思っています」
取材・文/小泉カツミ(こいずみかつみ) ノンフィクションライター。医療、芸能、心理学、林業、スマートコミュニティーなど幅広い分野を手がける。文化人、著名人のインタビューも多数。著書に『産めない母と産みの母~代理母出産という選択』など。近著に『崑ちゃん』(文藝春秋)がある。
撮影/渡邉智裕