このタイミングで、ENBU時代の知り合いからワークショップの誘いが舞い込んだ。このワークショップから生まれたのが、映画『カメラを止めるな!』だ。
「リハビリのつもりだったので、これまで以上に無理やり身体を動かしていたんですが、撮影の途中でガス欠になって、また“誰とも喋りたくない”とか思う時期もありました。そんなときにも、共演者の大沢真一郎さん(ゾンビドラマのプロデューサー役)が“山ちゃん、元気ないじゃん。どうしたの”って声をかけてくれて。“自分なんて、こんな人間だよ”って返したら“知ってる、大丈夫だよ”と言ってくれたことで、安心してまた力が出ました。そんな感じでみんな親切で、いつも助けられましたね。自分は本当に人に恵まれています」
さまざまなスタッフと交流するなかで、監督の上田慎一郎さんは「今までに会ったことのないタイプ」だそうで、学ぶことも多かったという。
「自分はこれまで、相手になにかを言われたら、100%の力で返さなきゃと思ってきた。でも、上田さんって他人に執着しないし、コミュニケーションも適当に打ち返すんですよ。“そんな会話の方法もあるのか!”って新鮮でした。ワークショップで言い合いが起こったときも、上田さんは止めるのではなくて、もっとワーワーなるように、みんなの意見をどんどん出させるんです。あれもおもしろかったな。いつも、いい方向にいくとは限らないけど」
演技を通して「生き直し」をしている
撮影が終了し、公開後には作品が大ヒット。しかし、この作品へ出演したことをどのように捉えるべきか、悩んでいた。
「メディアに注目されたことで“この機会を利用して有名になりたい”って思ったこともありました。でも、その後に呼んでもらったワークショップでぜんぜん身体が動かずに、どうすればいいのか悩んでいて。舞台挨拶でも、お会いするお客さんの顔色を伺ってしまい対応が難しかったり、いろいろ根掘り葉掘り聞かれて苦しくなったりと、“有名になるのって大変なんだ”と実感して。“カメ止め!”はドキュメンタリーに近いので、演技していた感覚でもない。最近では、自分が出演した作品というより、あれはあくまで上田さんの作品だ、という認識が正しいと感じています」
映画出演後、しばらくの休息を経て、今年2月に舞台『人間讃歌』(河西裕介短編作品集)に出演。その後はコロナウイルスの影響もあり、自宅でゆっくりする時期が続いていたが、今年5月に配信された短編映画『カメラを止めるな! リモート大作戦!』について、前作への出演者としてどのように見ているのか。
「発表されたあと、ありがたいことに上田さんが“今回は限られた環境と時間で作るから山崎はキャスティングできなかったけど”って、わざわざ連絡をくれました。嬉しかったけれど、もし仮に声をかけてもらったとしても、難しかったと思います。“こんな状況でも、なにか工夫してやってみよう”という上田さんのスタンスは尊敬します。ただ、当時の僕は“なにもできないのであれば、その状況を受け入れて味わいたい”という気持ちでしたから」
だが、コロナ禍でワークショップや舞台の場が制限されている現在も、演技をすることへのモチベーションは失っていない。
「なぜ人前に立って、演技をするのか。その意味を探りながらやっている状況ですが、最近は“生き直し”をしている実感もあるんです。舞台で人に見られることって、小さいころに親から見られていた感覚とすごく似ているから。あれをしたらいけない、これをしたらいけないって言われている気がする。そういう感覚とちゃんと向き合うために、舞台に立っているのかな、といまは思います」
見る人になにかを伝えるためではなく、自分を突き詰めるために演技をする。それが彼の生きる道なのだ。
「次に参加する作品では、演出家の意図とは別に、自分なりの意図を、いままでより強く持って演技をしてみたいと思っています。普段の生活でも、どんな言動をする自分が本当の自分なのか、よくわからないところがある。自分が思っていることなのか、他人の考えを、自分が感じ取って合わせているだけなのか。それが、ぐじゃぐじゃになってしまうことがあるので」
(取材・文/森ユースケ)
【プロフィール】
山崎俊太郎(やまざき・しゅんたろう) ◎俳優。北海道で生まれ、福島県で育つ。演劇学校『ENBUゼミナール』で演技を学び、映画『カメラを止めるな!』に出演したことで注目を浴びる。今年2月には舞台『人間讃歌』(河西裕介短編作品集)に出演。周囲との関わり方にたびたび悩みつつも、“真の自分”を見出すべく演じることをひたむきに続けている。twitter→@YamagoeZOMBIE