人に寄り添う心のあり方が問われている
約20年前、母がガーナへ帰国した。矢野さんが会いに行くと、6時間かけて、かつて奴隷貿易が行われていた要塞へ矢野さんを連れて行くことがある。そのたびに奴隷制、黒人差別について話し合う。
ガーナでも矢野さんは「外国人」扱いをされる。心に浮かぶのは「自分は一体、何人なのだろう」という思い。
「ブラック・ライブズ・マターの運動が起きて、意見を求められることも多い。正直、簡単ではない。僕の経験では国や人種ではなく、ひとりひとりの選択が差別を生んできたのだと思っています。見た目にとらわれず人として向き合える社会こそが僕の理想です。誰かが理不尽に悲しんでいるなら、シンプルに僕はその人のそばにいたい」
人種や国籍と関係なく、すべての人が人間として認められる──。それが大前提であるべきと矢野さんは言う。
26歳のとき、ストリートチルドレンに出会ったことがきっかけで、ガーナで学校を造る活動を開始。大人たちに見捨てられた存在を「他人事(ひとごと)」「しかたない」で終わらせることができなかった。大人になった今は自分が子どもに問われる側だ。
「世界を前向きにして世の中をもっと生きやすくしたい。生きにくさは、僕らがつくっているんですよね。差別だけじゃなく、さまざまな問題に苦しんでいる人が身近にたくさんいる。ブラック・ライブズ・マターも、1人の命が奪われることをどう思うか? という話。自分の家族が意図的に殺されたらどうか? 人に寄り添う心のあり方が問われているんです」
(取材・文/吉田千亜)