式秀部屋のおかみさんの印象
私は以前に週刊誌の企画で「おかみさん座談会」を数回開いたことがあったが、そこで伺ったところでは、「おすもうさんとは結婚したものの、まさか夫が相撲部屋の師匠になり、自分がおかみさんになるとは思ってもいなかった」と全員が言っていたのだった。
特別に相撲部屋に於ける弟子の指導方法を教わっているわけでもなければ、実はおかみさん間の交流というのもめったになくて(座談会のときに初めてお会いしました!という方がほとんどだった)、指導方法を相談し合うこともない。「(同部屋の)先代親方のおかみさんに相談することはある」というが、昔と今では育成方法に大きな違いがある。
渦中の式秀部屋のおかみさんも、座談会でご一緒した。
座談会に集まったほかのおかみさん方は、式秀のおかみさんからしたら先輩格にあたる人たちだったが、式秀のおかみさんは臆することなくハキハキと物を言い、自分なりの考えを発言していた。なるほど相撲部屋のおかみさんとはこれぐらい堂々としていないと、若い、腕力のある男の子たちになめられちゃうんだなぁと思ったのを覚えている。
そのときに式秀のおかみさんが、
「うちにはサポートしてくれる若い弟子が2人いて、部屋頭の子と3人で協力してくれて動かしています。失敗などしたときにはLINEで注意しますが、インパクトのあるメッセージを書くようにしています。主に人として大切なことやお客さまへの感謝の気持ちを忘れないようにと、モラルハラスメントにならないよう気をつけて教えています」
と言っていた。
式秀部屋には19人弟子がいる。関取はおらず、序ノ口、序二段、三段目の力士たちで、親方の指導方針は「明るく楽しく元気よく」と、優しい印象を受ける。おそらく、おかみさんはバランスをとって親方のぶんも日ごろから若い彼らに幾分厳しめな言葉であれこれ指導していたのだろう。
少し前に映画配給会社「アップリンク」の65歳の社長が、20代~30代前半の若い元従業員たちにパワハラで損害賠償を求めて東京地裁に提訴された。良質な映画を届ける配給会社というイメージの「アップリンク」だけに驚きだったが、社長はたびたびパワハラだと社員たちから指摘されていながら、何がパワハラか理解できず是正されることはなかったという。
もしかして、式秀おかみさんも若い力士たちに「おかみさんモラハラですよ」と指摘されながら、それが理解できずにいたかもしれない。年代の差などで、そうした感覚には大きな開きがあるのは、この社長の例でもわかる。かつては当たり前だったことが、今は違う。LINEの言葉をよかれと思って敢えてインパクトある言葉にしていたというのも、LINEはだいたい用件のみ手短に、ゆるふわ表現&スタンプ多用な若い世代からしてみたら、びっくり!なものだったかもしれない。
若い9人の力士は相撲協会が仲裁に入って部屋に戻り、今後は協会、親方も交えて話し合いを続けていくそうだが、こうした問題でいちばん大事なのは情報公開。両者の立場の声を明らかにすることで、外部からの意見も受け取りやすくして、理解を深め合っていってほしい。おかみさんは今、自分がしてきたことを否定されて混乱の中にあるだろうが、式秀部屋からの公式見解も早めにしてほしいと願う。