量も「ごちそう」のうち

 事実、旅館では食べきれない量の料理が提供されることが多い。でもそれが旅行の醍醐味だったりもする……。旅館側はどう捉えているのだろうか。

「さすがにSNSなどで言われたことはないですが、以前、お客さまから“ごはんの量が多すぎる”と指摘をいただいたことはあります

 と話すのは、旬の料理と質のいい温泉に定評がある人気旅館を、地方で経営する男性。なぜ旅館の料理は量が多いのだろうか。個人的な意見と前置きしたうえで、こう話してくれた。

「やっぱり私たちとしては、旅行先や宿では日常を離れてゆっくりしてほしいという気持ちがあるんです。非日常感を味わってほしい。それはごはんも一緒です。そこで出されたものが一般的な食卓に出てくる量や品数だけだと、味は特別でも見た目に特別感がなくなってしまう。遊びに来てくれたおもてなしの心を込めて、豪華なごはんにしています」 

 また、先の問題となっているツイートの投稿者は、 “シニア層がメインターゲットのはずの宿で、この料理の多さ”ということに苦言を呈していたが、こちらの旅館にとっては逆の思いもあるようで、

「私たちの旅館も利用者の多くがシニア層や家族連れのお客さまです。でも、だからこそ、という気持ちもあります。シニア世代の方には “量もごちそうのうち”という認識を持たれてる方も少なくない。長らく旅館をやってきた中で、私たちもそう捉えている部分もあります。私が単に昭和気質だけなのかもしれませんが(笑)。若い方やお子さん連れの方に関しては、やっぱりお腹いっぱい食べてほしいし、量が少ないと満足してもらえないのでは? という気持ちも正直あります

 ツイッターの男性は〈昔は食べきれないほどのご馳走を出すのが、勝ち方のセオリーだったのかもしれないけれど、明らかに時代遅れ〉と述べているが、食べきれるか食べきれないかということよりも、旅館側としてはその“思い”に重きを置いているようだ。

 とはいえ、旅館に限らずフードロス問題が深刻なのも事実。でも今は事前にHPや宿の予約サイトで料理のイメージは掴めるうえ、宿側もアレルギー対応はもちろん、事前に伝えれば、食事の量を調整してくれるところも多い。心配なら一度、相談してみるのもいいだろう。

「おもてなし」とそれを「受ける」側のバランス。泊まる側にも“配慮”が必要ということだろうか。時代とともに、それらの関係性にも変化が生じてきているのかもしれない。