公園は江戸時代に尾張徳川家の下屋敷があった場所。
冒頭の吉田さんによると、
「当時は世界最大級の庭園があり、邪神が封印された祠があったという話も残ります」
問題の『箱根山』は庭園内にあった東海道の小田原宿を模した一角に箱根の山をイメージして造られた人工の山。
山頂には街灯もなく真っ暗。しかし開放感があり、自然に囲まれた都会のオアシス的なのどかさがあり、妙な気配は感じられなかった。
白い服の女性も火の玉も現れず、次の場所に向かおうと山を下りるとき、誰もいない背後から「うぅ……」というかすかなうめき声が聞こえた。
カメラマンは少し離れた私の前を歩いている。
聞き間違いかと思ったが、その声は雨音との間を縫うように、まるで別の空間から響いていた。
「自称だとしても霊感がある人や反応しやすい人はいます。一緒に肝試しに行くと盛り上がりますが、しゃれにならない状況になるときもあります。その人の精神状態を危うくするおそれがあるなら連れて行かないほうがいい」(前出・吉田さん)
あの声には触れてはいけないような気がしたため、聞かなかったことにして、さらに公園の奥へと進んだ。