――テレワークが叫ばれだした当初は、「背景はどうしたらいい」、「メイクはどうしよう」といった表面的な問い合わせが多かったと振り返る西出先生。しかし、今現在は一歩先に進み、まさに堀田先生が指摘するオンライン上のコミュニケーションにまつわる相談が増えているという。

そのときどきのマナーを作っていく

西出:大事なことは伝え方ですよね。反応が薄い若手社員がいたとして、上司がどのように「何か意見はないか」と尋ねられるか。対面と違ってリモートは、ただでさえ伝わりづらいですから、圧を与えるような伝え方は逆効果です。ですから、普段よりもカジュアルな言葉を多用した方がいいと思います。

堀田:堅くなりがちですよね。心の距離と物理的距離って比例するもの。リモートは遠い感じがするから、どうしても“よそ行きの言葉”っぽくなってしまう。だからこそ、カジュアルな言葉を使うのは大事だと思います。例えばですが、心の距離を近づけるために、「今度の会議(授業)は、みんながお気に入りのTシャツを着て参加しよう」という提案などは、どう思いますか?

西出:とてもいいと思います! 強制的にTシャツデーを始めるのではなく、「Tシャツデーをしてみませんか?」と提案してみることに意味がある。マナーでも同じことが言えるのですが、決めつけてしまうと負荷になってしまう。相手の気持ちを汲み取らないから、反発が生じる。そうならないように、みんなで作り上げていけばいいんですよね。

堀田:なるほど。テーマがあれば参加しやすいですし、自然なコミュニケーションになりやすい。

西出:コロナによっていろいろな変化が起きていますよね。体験したことのないことがこれからも起こるでしょうから、これからの時代は「マナーはこうであるべき」ではなく、そのときどきに「マナーを作っていく」ことが問われてくると思います。『超基本 テレワークマナーの教科書』では、最低限の提案こそしていますが、マナー講師が決めつけることではなくて、チームのメンバーたちとストレスにならない心地よいマナーを決めることが、新時代のマナーだと提唱しているんですよ。

堀田:創作マナーという発想。“謎マナー”ではなく、“Our(私たちの)マナー”を作っていくところから考える。それ自体がコミュニケーションになりそうですね! とは言え、学生たちからただでさえタメ口で話されることが多いので、これ以上なれなれしくされたらどうしよう……ははは。

西出:そこは乗っかっていきましょう(笑)。先生が若々しい証拠ですから、学生たちのアイドルとして接してもいいんじゃないですか?

堀田:ドン引きされますよ! でも、もっとアメリカンな堀田は出してもいいかも。

西出:マナーは、お互いを楽しくハッピーにするものであって、「楽しい」もの。ストレスになってはいけません。そのために、TPPPO(Time, Place, Person, Position, Occasion)を考えましょうと。ただし、自分たちのマナーと他の人たちのマナーが違っても干渉してはいけない。「そういう考え方もあるんだね」と受け止めること。

堀田マナー警察になってはいけない、と。

西出:その通りです! 強要や干渉はNG。

堀田:ルールと違って、マナーには“配慮”の気持ちが問われてきますから、まさに強要や干渉は配慮に欠ける行為と言えますね。英語の「polite」は「礼儀正しさ」と訳されていますが、英語圏では「配慮する」という意味で使われます。敬意とは相手に配慮すること。上司を前にしたときに「礼儀正しさ」ばかり気にするのではなく、本来の意味である「配慮する」気持ちを持てるかどうかだと思うんです。

西出:私もまったく同じ意見です。マナーは「形」ではないんですよね。3つの「こ」が大事で、「言葉」「行動」「心」があれば大丈夫。こういう気持ちを持っている方は、たとえば電話口で「ありがとうございます」と話しているとき、自然と頭を下げてしまう方なんです。

堀田:本当にそう思います。そこに必要なものとして言葉遣いや気配り、目配りがある。マナーは形や型じゃない。しかも、これまであった形は、コロナによって崩壊してしまった(笑)。だったら、“新しい生活様式”ならぬ“新しいマナー”を作っていけばいい。丁寧語って、どの言語も文法が長くなるんですね。裏を返せば、手間をかけた言葉だからこそ敬意が伝わる。料理もそうですが、手間をかけたぶんだけ付加価値が生じる。どう配慮していいか分からないという人は、手間をかけてみるという視座があるといい。

西出:素晴らしいです! 堀田先生、私のマナー講義にゲストで出てくれませんか!?(笑)

堀田:呼んでいただけるなら! ただ……その前に学生たちに手間暇かけた授業を考えないと!

取材・文/我妻弘崇


【プロフィール】
西出ひろ子 にしで・ひろこ 1967年、大分県生まれ。マナーコンサルタント、ビジネスデザイナー、ヒロコマナーグループ代表。1999年、英国オックスフォードでオックスフォード大学大学院遺伝子学研究者と起業。帰国後、国内外の名だたる企業300社以上のマナー・人財育成コンサルティングを手掛け、NHK大河ドラマ、映画などのマナー監修、タレント、スポーツ選手など多岐にわたるマナー指導を行う。著書監修本は国内外で95冊。

堀田秀吾 ほった・しゅうご 1968年、熊本県生まれ。明治大学教授、言語学者。言語学や法学に加え、社会心理学、脳科学の分野にも明るく多角的な研究を展開。テレビ番組のコメンテーター、芸能事務所の顧問も務めるなど多岐にわたって活躍中。著書に『このことわざ、科学的に立証されているんです』(主婦と生活社)、『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』(サンクチュアリ出版)など。