トップシーズンの冬までに収束するかが勝負
毎年、筆者がお世話になっている越後湯沢温泉街に位置する宿『ヴィラまつのや』のオーナーである高井良一さん、百合子さんご夫婦に再会し、話を聞いた。
「フジロックの他にも学校の部活動の夏合宿や秋のイベントの宿泊予約も全部キャンセルになってしまって。フジロックに毎年いらっしゃるお客様の中には、寂しいから1泊でもいいから泊まりに行っていい? って言う方もいるけど、ごめんねってお断りしているんです。私たち夫婦も高齢だし、万が一感染したら怖いので、申し訳ないけど、12月まで休業してメインの冬に備えることに決めたの。私たちも寂しいけれど、お客様には来年また来てねって言っています」(妻の百合子さん)
他にも高齢者が営む民宿などでは、感染対策が及ばないからと休業を選択するところが見られるという。夫の良一さんが続ける。
「今は宿の維持費はかかっても国や町の給付金を使いながらしのいでいますが、われわれがいちばん危惧しているのはこの冬、どうなるかという点です。冬までにワクチンや特効薬ができるか、収束するか……その辺が勝負になってくると思います」
トップシーズンの手前でコロナが収まってくれればいいが、高井さん夫妻は最悪の状況も考えて、今後の対応をどうしようか頭を痛めていると話す。
この状況が冬を越して続けば、町では潰れる宿が出てくるかもしれない。また、宿に食材を卸す業者も食材が余って死活問題になっているといい、観光バス会社では何十台もある大型バスが動かないままの状態だという。
「町が死んだようになってしまって……私がお嫁にきて40数年たつけれど、こんなのは初めて。暖冬で人が来ないことはあったけど、それと違ってずっとだから」(百合子さん)
湯沢町の感染者はゼロ
人口約8000人の湯沢町は8月20日現在、コロナ感染者はゼロ。今後、関東圏から多くの人が流入して感染者が多発すれば医療崩壊も懸念される。町民の方の不安は強く、町を走る県外ナンバーの車への警戒感もあるという。
「観光地なのに大々的に“お越しください”って言えない状況になっているのは辛いです」(百合子さん)
一方で、県内からの観光客のシェアを広げる施策もある。8月いっぱいは新潟県民限定で県内宿泊キャンペーンが行われており、越後湯沢温泉観光協会などを通して宿泊施設に申し込むと最大5000円引きになるのだ。また、湯沢町観光協会の加盟店で感染症対策を行っているところは「新型コロナウイルス感染対策実施中」のポスターを店先に掲出。「Go Toトラベルキャンペーン」も町全体での本格スタートはこれからで、冬への準備を進めているという。
「町での感染症対策は万全を期すつもりなので、いらっしゃるお客様も十分に気をつけてお越しいただければと思っています」(上村さん)
苦境にあるにもかかわらず、みなさん明るく話してくださったが、先行きの見えない不安は甚大なはずだ。町の方々が抱える葛藤を考えるとやりきれない。
お話を伺った方達は皆、「今は我慢の時」だとおっしゃった。来年は安心して、笑顔で湯沢町の方々と会えるように──いち早くコロナが終息し、この地でフジロックを楽しめることを願う。
(取材・文/小新井知子)