差別的な扱いに不公平さ

 瀬戸さんはコロナ禍にあって連日のように、所持金が数百円になってしまったような人からメールで連絡が入ると、すぐに駆け付けて支援にあたっている。何日も食べてない彼らにファミレスなどでご飯を食べてもらうなどして、『反貧困ネットワーク』に寄せられた寄付金から当座の生活費を手渡す。

 最近では「所持金が千円を切った状態でSOSをくれる人が多く、20代~40代、そして女性が増えています」という。ネットカフェ難民と呼ばれる層と重なるが、自己責任論で育った世代の彼らは、ギリギリまで自分でなんとかしようと頑張る。瀬戸さんのような支援者がいることで、今はなんとか多くの命をつないでいるのだけど、本来ならそれは福祉行政のやるべきことだろう。

以前は雨露をしのげた歩道橋下は立ち入り禁止になっている(筆者撮影)
以前は雨露をしのげた歩道橋下は立ち入り禁止になっている(筆者撮影)
【写真】生活困窮者の支援に取り組んでいる東京都議会議員の池川友一さんと瀬戸大作さん

 では、実際に今回、生活保護に何人ぐらいの人がつながったのか? 瀬戸さんに聞いてみたが、実数はよく分からないという。そこで、ホームレス問題の調査研究をしている北畠拓也さんに伺ったところ、「日ごろから、路上から生活保護につながった居宅保護率などのデータは公開されていないんですよ。集計されているのかも分かりません。そうしたことからも見えてくる、路上生活の人が生活保護につながるときの差別的な扱いや不公平さは、大きな問題です」という。家を持たない人が、安心のある暮らしを得ることは難しい。

 そこで瀬戸さんたち支援者は、ビジネスホテルから出てきた人、ネットカフェから出てきた人など、今日の暮らしに困っている人が『生活保護』を申請に行くのに同行し、お手伝いをしている。

「そこにもまた、大きな問題があるんです」と瀬戸さん。

「区市ごとに対応が違うのがまず大問題ですけど、同時に僕ら支援者が同行して福祉事務所に行けば無事に生活保護につながり、アパートに入れたりの居住支援もしっかりしてもらえるんですけど、そうじゃない場合は? ビジネスホテルから出てひとりで福祉事務所に行ったときに、どういう対応をされているのか? それも分からないんです。

 僕がこのコロナ禍の間に何度かお世話になった福祉事務所では、この人にはどういう支援をしたらいいか? をしっかり見て、アパートがいいか、シェアハウスで人と一緒のほうがいいのか、また家計管理がしっかりできるか? などの状況を把握して支援してくれました。そういうことが、とても大事です。また、そういうところならきっとひとりで行っても丁寧な対応をしてもらえるでしょう。でも、そうじゃなければどうなっているのだろうか? と、考えてしまいます」

 いつ、どこへ、誰が行っても同じ対応を受けて安心できる福祉行政が今、残念ながら東京都には数えるほどしかない。「水際作戦」といって、福祉窓口に来た生活困窮者を福祉事務所が追い返すことも日常化しているんだそう。

安定した住まいを得るのは難しい(筆者撮影)
安定した住まいを得るのは難しい(筆者撮影)

 これを読んで、でも、そんなこと関係ないし……と思うだろうか? そこまで困るなんて私にはないって? 

 でも、今はコロナ禍という非常時だ。誰がいつどんなことになるかなんてわからない。それに、今日寝るところがない人をそのまま放っておいて平気ですか? と問いたい。もし、その人があなたの知ってる人や友達でも? いや、たとえ知らない人でも、誰かが生活にいき詰まってご飯も食べられず、例えばあなたの目の前で倒れたら? 思わず駆け寄り「大丈夫?」と、声をかけるでしょう? 

 生活保護は、あたなが「大丈夫?」と声を掛けたその人を、あなたに代わって「ここから先は任せてくださいね」と面倒看てくれるものであるべきものだ。

 私たちは今、コロナ禍にあってこそ、生活保護や福祉行政に関心をもつべきだと話すのは板橋区議の五十嵐やす子さんだ。瀬戸さんのサポートもする五十嵐さんは、私たちが福祉に関心を持つことで、自治体は変わっていくという。

「区議会ではさまざまな機会に、生活保護について区議が質問や意見を重ねることが大事なんです。自治体の水際対策の実情はどうなっているか、こういう対応はどうなっているのか、など確認したり、反対にいい所はいいと伝えていくことを大切にしています。そのためにも、区民や市民が関心を持ち、地元の議員に疑問や関心を伝えることです。だっておかしいじゃないですか? 一番困ってるときに助けてもらえないのは。そして今、一番困ってますよね。だったら助けてもらわないと!

 一番困ってるときに助けてもらいたい! そのとおりだ。ネットカフェからビジネスホテルへ入った1412名。本当ならその全員が今、住まいを得て安心して生活できてなきゃいけなかった。そうできないのはおかしいことなんだ、と私たちがまず知ること。そこから始めていきたい。

〈取材・文/和田靜香〉