長時間、大きな音を聞くのは危険
治療が効かなくなるだけでなく、めまいや難聴、耳鳴りを繰り返し、聴力は悪化の一途をたどる。
耳は聴力を司(つかさど)る神経が壊れてしまえば現代の医学では再生することはできない。ただし、ストレスだけでなく「音」が神経を壊すことがある。
井上院長が危険性を指摘する『スマホを含む音響機器による騒音難聴』。いわゆる“スマホ難聴”だ。
'19年2月、WHO(世界保健機関)は、世界の11億人の若者(12~35歳)がヘッドホンで音楽を聴くことで難聴になるおそれがあると警告した。
「耳の音に対する強さは人によって違いますが、イヤホンで音漏れするくらいの大きさで音楽を聴いている人は危険です。音の大きさ、聴いている時間、その人の耳の強さとの兼ね合いで難聴になる可能性はあります」
イヤホンに限らず、ロックコンサートなどで片方の耳だけが聞こえなくなったという人もいる。
ロック歌手の氷室京介は、'15年を最後にライブ活動を無期限で停止した。理由は聴覚障害で、大きな音を長時間、聴いていたことで症状が発症した可能性があるという。
スマホなどで音楽を聴くときに使うイヤホンには実は別の危険も潜んでいる。
「長時間使っていると、耳の中がジメジメして、カビが繁殖しやすい状態になります。イヤホンで耳の穴がこすれて湿疹状態になると、虫刺されをかいたときに出るような水分が耳からも出ます」
その分泌物で耳の中がジュクジュクになり、カビは増殖、かゆみはさらに続く。分泌物が固まって耳の穴が詰まれば聞こえだって悪くなる。
「鼓膜の奥にある神経が細菌でやられない限りは、聞こえは元に戻ります」
さらに耳の中は皮膚が弱い人なら綿棒であっても、傷つくこともある。
「結論からいえば、耳はあまり触らないでほしいです。そして長時間、大きな音を聞かないこと。
『突発性難聴』は血流障害が関係しているとの研究もあります。ストレスをためると血流は悪くなる。適度な運動をしてリフレッシュすることも大切です」
甘く見ると取り返しがつかないことにもなりかねない。
定期的に耳鼻咽喉科に通い、耳の健康状態をチェックしてもらうことが重要だ。次のページでは、突然、耳が聞こえなくなった当事者による体験談を紹介する。
【PROFILE】
井上泰宏先生 ◎耳鼻咽喉科いのうえクリニック院長医学博士。慶應義塾大学医学部卒業。25年以上にわたり、大学病院を中心に勤務。杏林大学助教授、慶應義塾大学准教授を経て、杉並区内に現医院を開業。難聴やめまい、耳鳴りなどの分野を得意とする