いいものを肯定できるような空気を
ドラマの舞台となった開城(ケソン)は、そんな平壌から170キロほど離れた、朝鮮戦争よりも昔の建物が残る田舎町。
「牧歌的な雰囲気の残る美しい街でした。北朝鮮では専業主婦の人たちが朝、働きに出かける労働者たちへ“頑張って”と称えるダンスをしていたりするんです。『愛の不時着』にも、朝はみんなで踊るシーンがありましたよね」
国の成り立ちが異なる北朝鮮には、日本の暮らしからは想像もつかない現実がある。
「平壌(ピョンヤン)は外車も走る豊かな街に見えました。地位のある人たちが暮らす巨大なマンションが立ち並んでいます。北朝鮮には国民に移動の自由がないので地方に生まれ育った場合、特別に優秀な人でないと、平壌に移住することは考えられないと聞きました」
情報が閉ざされている中で北原さん自身、息苦しさを覚えたこともあったそうだ。
「広告が一切ない、すべて国のプロパガンダの国でどのように人々が生きているのか、より知りたいと思いました」
印象的だったのは、現地ガイドを担当した40代男性の話。
「小学校の後半くらいから言語教育を受けるのですが、どの言語か自分で選べず、振り分け式。“これから日本との仕事が増えるので、日本語を学ぶのは大事”と言われていた時期で、かつて植民地支配をしていた国の言語を学ぶことに葛藤があったそうです。“隣の国の言葉を知るのは大切だよ”と、母親に言われ、プライドを持って学んできたと話してくれました」
『愛の不時着』で注目されたが、近くて遠い北朝鮮という、いまだ謎深い国。北原さんは最近、こんな変化を感じた。
「開城に言ったと話すと、うらやましがられるんです。これもドラマの影響なんだろうなと思います。韓国ドラマというだけで見ないという人たちもたくさんいるでしょうけど、頭脳やパワー、美、持っている権力など、男女が完璧に対等に描かれているところなど日本のドラマでなかなか味わえない満足感があります。それに韓国ドラマって本当にハズレがないので(笑)!
嫌韓的な言葉が出てきやすい世の中ですが、いいものはいいと肯定できるような空気が日本に広がればいいなと思います」
(取材・文/高橋もも子)