耐えきれず、自殺する人も
社会がすべきことは何か

 日本では、芸能人をはじめ、子どもが不祥事を起こすと親が謝罪をしなければならないという風潮が強い。子どもが未成年であればなおさら、親に向けられる責任追及は厳しくなる。親の社会的地位が高ければ高いほど風当たりは強く、子の犯罪は社会的な死を意味する。

 地元の名士だった勉(仮名・50代)は、未成年だった息子が殺人事件を起こしたことによって仕事、財産、信用、友人、家族、そして、自らの命まで失うことになった。

 勉は親としての責任を厳しく問われることは覚悟の上だったが、犯行の猟奇性から世間の耳目を集め、少年が猟奇性をどこで身に着けていったのか、その生い立ちや家族のプライバシーまで次々と暴かれることとなった。

 そんな勉の人生には“敵”も多かったという。「リベンジポルノ」が社会問題視される昨今、勉には密かに交際していた女性がおり、一方的な別れをして恨みを買っていたことから、この機会に復讐されるのではないかという恐怖に取りつかれていった。

 そして、インターネットには家族を中傷する書き込みが日に日に増えていく。身近な人たちでさえ事件が起きた途端に掌を返し、親身になるふりをして近づいてきてはマスコミに情報を流していたという。結果的に、勉に対して日常的に恨みを抱いていた人々が、バッシングに加担する形になったのだ。疑心暗鬼になっても不思議ではない。勉はついに、自ら命を絶ってしまった。
 
 親にとって、子どもが殺人者になるほどつらい経験はない。多額の損害賠償を負わなければならない場合もあり、家族が受ける精神的・経済的ダメージは甚大である。それに加え、世間からのバッシングや個人情報の暴露は家族を追いつめ、家族が自殺に至るケースは後を絶たない。

 アメリカでは、加害者家族自らが声を上げ支援活動を展開してきた。未成年者による凶悪事件の犯人の親が、テレビの前で顔を出してインタビューを受けたり、実名による手記を発表することも稀ではない。

 銃乱射事件を起こした未成年の犯人の母親がテレビのインタビューに答えたところ、全米から激励の手紙が届いたという話もある。手紙の多くは、「息子さんに面会に行ってあげて」「傷ついた兄弟のケアも忘れずに」といった親としてすべきことを応援する内容だという。
 
 親に責任がないというつもりはない。しかし、子どもを殺人犯に育てる親などいない。事件が起きただけで十分に苦しんでおり、それに追い打ちをかけるように一斉にバッシングし、追い詰めたからといって事件によって失われた命が戻ってくるわけではない。

 親がこの世からいなくなるということは、少年の更生の支え手を失うことでもある。社会がすべきことは、具体的な親の責任を明らかにし、正しい方向へと導くことではないだろうか。

阿部恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長。日本で初めて犯罪加害者家族を対象とした支援組織を設立。全国の加害者家族からの相談に対応しながら講演や執筆活動を展開。著書『家族という呪い―加害者と暮らし続けるということ』(幻冬舎新書、2019)、『息子が人を殺しました―加害者家族の真実』(幻冬舎新書、2017)など。