性別を問わず、助け合っていくことはできる
「TSUTAYAは当時、4000人の社員を抱える大企業。でも、ネット化の波が押し寄せ、アマゾンや楽天にお客さんを取られてしまう危険性があった。それを視野に入れて、外部から私を呼んで会社の体質改善を図ろうとしたのでしょう。当時60歳近いベテラン経営者が40代半ばの女性に託すのはリスクもあったと思いますが、信頼に応えようと飛び込みました」
とはいえ、改革は簡単にはいかなかった。増田社長は赤字店でも「思い入れがある店だからいいんだ」と言うが、中村さんの目線では放置できない。そういった意見のぶつかり合いが日常的にあった。
幹部の中にも彼女のやり方に賛同できない者がいた。
「いわゆる“大企業病”ですね(苦笑)。私が言ってないことを増田さんの耳に入れたり、足を引っ張ろうとしたりする幹部を何人も見ました。そのエネルギーをなぜ仕事に使わないのかと不思議に思ったほどです」
ただでさえ外部から役員に入ってきた外様。しかも年下の女性とくれば、反発が高まるのは必至。それでも中村さんは、めげずに自身の正義を貫き続けた。
「女性であるという難しさがあったのは確かですけど、有利な点もありますよね。若いときはおじさんに話を聞いてもらえるし、かわいがってもらえる。家庭と仕事の両立とか大変なこともありますけど、“女性だからできない”とは私は言ってほしくない。性別を問わず、助け合っていくことはできるはずですから」
そう話す中村さんは、女性が働きやすい環境を整えようと頑張ってきた。'12年11月に出前館の社長に戻ってからは、産休や育休などをさらに拡充し、子どもの行事の際に半休できる制度も採用。自らの経験を生かしながら子育て中の女性社員のサポート体制を整備した。
世のため、人のためになるデリバリー
「世のため、人のためになる仕事がしたい」
時間がたつごとに、そんな思いを膨らませていった中村さん。現在、最も力を注いでいるのが飲食物を配達代行するシェアリングデリバリー(R)だ。'14年に商店街でのトライアルに踏み切り'17年から本格始動。運送会社や新聞販売店などと提携しつつ拠点を全国に拡大、今年のコロナ禍をきっかけに一気に火がついた。
中村さんが「これは来る」と直感してからの動きの速さは、誰にも敵(かな)わない。そう痛感するひとりが出前館・執行役員の清村遥子デリバリーコンサルティング本部長だ。
「中村会長とは'17年に初めてお会いしたのですが、とにかく即断即決。転職で悩んでいた私に“ウチに来ちゃいなさいよ”と。あれには驚かされました。新規事業を立ち上げるときも“2000万~3000万円のことならやっちゃいなさい”と、思いきり背中を押してくれる。私もリクルート出身ですが“スピード・イズ・パワー”という当時よく聞いた言葉を地で行っているなと感じます。
シェアリングデリバリーは関わる全員がハッピーになれる仕組み。会長は、間違いなく当たると確信を持たれていました。本当に頼もしい限りです」(清村執行役員)