“自分にはお役目がある”と必ず思えることがある
2015年に行われた登校拒否や不登校当事者たちの会のゲストとなった際、彼女はある事実を知って愕然とする。
「新学期が始まると子どもたちが数多く命を絶っている現実をお伝えすると、非常にショックを受けていました」
長期休みのあとは子どもの自殺が増える。中でも夏休み明けの9月1日は自殺者が最も多い日だ。
「講演では“若い命が絶たれるということは本当にもったいない。自分にはお役目があると必ず思えることがある”と冷静な口調で、心を砕きながら語りかけていました」
以後、生きづらさを抱える子どもたちに思いを寄せ、病気で身体が思うように動かなくなってもなお自殺防止の活動をやめようとしなかった。
希林さんが亡くなる3週間前のことだ。
「死なないでね。……どうか生きてください……」
全身がんで入院し、何度も危篤状態になった彼女は、病室から窓の外に向かって涙をこらえながら繰り返し語りかけていたという。
《(母は)「今日、死ぬ子がたくさんいるのよ」って説明してくれたんです。それぞれの魂に向かって話しかけているようでした》(以下、樹木希林・内田也哉子著『9月1日母からのバトン』(ポプラ社))
その日はまさに9月1日だった。子どもたちの自殺問題を知った娘の内田也哉子さんはその後、石井さんにこう話した。
「がんで死が近くなり、命には限りあることを痛感したんだと思います。だから“自ら命を絶つ。こんなに理不尽な、もったいないことはない”と思っていたのでは、と」