「性犯罪者の家族とは付き合いたくない」
息子の様子がおかしいことにも気が付いた。いつも友達と遊んで帰ってくるはずなのに帰りが早く、最近は友達の話もしない。
「○○君たちと遊ばないの?」
息子に尋ねると、
「僕と遊んじゃダメって言われてるんだって」
「どうして?」
息子はわからないというように首を横に振った。元子は、事件のことを打ち明けたママ友の自宅を訪ねると、やはり、彼女が事件のことを周囲に漏らしていたのだった。
「なんだか、黙っているのが心苦しくなって……。ご主人、犯罪を犯したのに普通の生活をしてるって納得がいかない」
夫が起こした事件であって、家族は関係ないのにーー。元子はそう言い返したかったが、自責の念からとても言葉にできなかった。
「元子にはわからないと思うけど、私たち女の子を持つ母親として、性犯罪者の家族とは付き合いたくない」
元子はもうこの地域で生きていくことはできないと覚悟した。事件後、定期的に精神科に通院していた夫がうつ病と診断され、しばらく休職することになった。事件を起こす前から職場でストレスを抱えており精神的に不安定だったという。
一家は都市部に転居し、専業主婦だった元子も仕事を始めた。元子は仕事を始めるようになって、夫がひとりで抱えてきたプレッシャーが理解できるようになったという。夫の回復を信じ、家族で支えていきたいと見守っている。
性犯罪の中でも痴漢や盗撮は、重い罪にはならず、事件以前と変わらない生活をしているように見える家族もいる。しかし、身近な男性が性犯罪に手を染めたという事実は、「妻」や「娘」といった加害者家族の女性たちを精神的にも苦しめ、社会的に追い詰めている。
性犯罪は再犯するケースも多く、加害者の更生には長期的な治療が求められ、加害者となった家族を支えたいと思う反面、再犯に怯えながら生活をしている家族もいる。被害者のケアが重要であることは言うまでもない。一方で、女性や子どもである加害者家族のケアも忘れてはならない。
阿部恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長。日本で初めて犯罪加害者家族を対象とした支援組織を設立。全国の加害者家族からの相談に対応しながら講演や執筆活動を展開。著書『家族という呪い―加害者と暮らし続けるということ』(幻冬舎新書、2019)、『息子が人を殺しました―加害者家族の真実』(幻冬舎新書、2017)など。