自転車が「歩道」を走る国は野蛮!?
歩道は歩行者優先。そして車道は、車、自転車、バイクなどすべての車両で共有する場所。だが、歩道では自転車が幅をきかせ、車道では車が幅をきかせる。そんな妙な実態がある。
特に、「車道は自動車専用道」という車のドライバー側の意識を田中さんは問題視する。
「歴史的な背景が生み出した誤った認識です。ほとんど知られていませんが、日本では長い間、自転車が普通に車道を走っていました。
明治から大正時代に自動車が登場しますが、車道を自転車と共有していました。昭和の時代も、やはり車道を自転車が普通に走っている。
ところが1970年、高度成長の時代に、暫定的に一部の歩道を自転車が通行してもよいという場所を造ったんです。そこから『自転車はどこでも歩道を走れる』という間違った習慣が広まってしまった。ただ、道交法ではずっと一貫して、自転車は車道を通行するように明記されているんです」
今から50年前だとすれば、小誌読者のほとんどが「自転車は歩道を走るもの」と認識して育ったのではないだろうか。だが、世界的な基準でみても、自転車が『歩道』を走る国はまれだという。
それを象徴するエピソードを田中さんが教えてくれた。
「アフリカの某大使が日本に来たときに“日本は素晴らしい。食べ物はおいしいし、人は親切だし、さすがおもてなしの国だ。ただし、ひとつだけ残念なことがある。それは自転車が歩道を走っていることだ”と言ったそうです」
欧州では自転車政策が進化し、車より自転車を優先する道路も造られている。
オランダでは、自転車が横に2台、デンマークでは3台並んで走れる自転車専用空間を主要道路に設けている。また、イギリスやアメリカなど多くの国で、交差点における自転車の停止線は、車の前方に設けられ、車より先に発進できる。それが世界的な常識なのだ。
「車道では自動車が優先という認識は、日本だけなんですね。ドライバーの認識を改める教育をもっと徹底するべきだと思います」
田中さんは、車道で幅寄せして自転車を押しやる悪質ドライバーにも遭遇してきた。いわゆる自転車へのあおり運転だ。そうした「安全のためにやむをえない」シーンは道交法の例外に該当するため、歩道に逃げて身を守る選択をする必要がある。
日本でも、自転車を意識した道路整備は積極的に進められている。
今年6月、国土交通省は新型コロナウイルスの感染拡大対策で自転車交通量が増加したのを受け、「東京23区内の国道および主要都道の自転車通行帯などを今年度に約17km整備する」と発表。こうした道路整備とドライバーに正しい意識が浸透することで、自転車が安心して「車道通行」を選択できる社会が形成されるのかもしれない。