名古屋を中心に活動するアイドルグループ『SKE48』のメンバーとして活躍していた矢方美紀。子どものころからの夢だった声優の道に進むためグループを卒業した翌年に、乳がんが見つかった。25歳で左乳房を全摘。がんとともに前向きに生きる姿は、同じ乳がん患者のみならず、AYA世代(思春期・若年成人)のがん患者にも大きな勇気を与えている。(以下、矢方さんのコメント)
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2018年の春に左乳房全摘と、リンパ節切除の手術を受けました。その後、抗がん剤治療、放射線治療を経て、ホルモン治療を始めてから2年がたちます。ホルモン治療は10年続ける予定ですが、飲み続けるほどにさまざまな副作用を実感しています。汗が止まらなかったり、すぐむくみが出たり、疲れやすくなったり。それでも仕事をして、毎日を楽しんで、普通に生活できています。今は、通院も3か月に1度です。
乳がん発見のきっかけは、セルフチェックでした。ビー玉のようなしこりを感じ、知り合いに相談したら「すぐ病院に行きなさい」と。検査の結果、ステージ2bで、リンパ節にも転移しているとわかったんです。「もしかして、私、死ぬの?」と怖くて。若年性の乳がんなので、進行してしまうと手術ができなくなるかもしれないという先生の話を聞いて、手術を受け入れました。術後の検査で、実際は3aまで進んでいたこともわかりました。
AYA世代だからこその気づき
がんを公表したのは手術後です。病気が仕事のハンデになるかもしれないと迷いもありました。でも病気を理解してもらったほうが、一緒に仕事をする方々もやりやすいのかな、と考えたんです。それにファンのみなさんにも隠さず、きちんと伝えたかった。
公表したあと、NHKさんから『#乳がんダイアリー 矢方美紀』という番組のお話をいただき、治療のことや、日々の様子を発信してきました。抗がん剤の点滴が長すぎてつらいとか、副作用でだるいとか、髪が抜けてきたけどウイッグが暑くていやだとか。ありのままの日々をお伝えしたところ、とても多くの方々から反響がありました。同じAYA世代の患者さんからメッセージをいただくこともあります。うれしかったのは、
「がんになって怖かったけど、矢方さんを見て、治療をしながら仕事もできて、自分なりの生活をつくっていけるとわかった」
と言ってもらえたことです。AYA世代だからこその“気づき”ってあると思うんです。私自身、以前はもっとネガティブでした。でも、がんがきっかけで、生きていることは当たり前じゃないと気づいたんです。周りの人への感謝の気持ちも生まれ、人を見る目も変わったと思います。20代でこんな大切なことに気づけるって、大きな意味がありますよね。それに治療で失った数年もすぐ取り戻せます。もちろん、私も泣きました。でも、泣いてばかりじゃもったいないと、少しずつ思えるようになったんです。
いまもSKE時代と変わらず、名古屋を拠点に自分のペースで仕事をしています。以前は再建手術を考えていましたが、いまはその気持ちもなくなりました。というのも、仕事や趣味など自分がやりたいことで「胸が片方ないからできない!」ってことがひとつもなかったんです。年齢を重ねるとまた考えが変わるかもしれないけれど、そのときどきの自分の気持ちを大切にしたいですね。
声優のお仕事はまだまだスタート地点。もっと努力して、実力をつけたいです。今は、来年放送予定のアニメ出演に向け準備をしつつ、ラジオのお仕事もしています。
病名を公表してからピンクリボンのイベントに呼んでいただくことも。同じ悩みを持つ方々にとって、私の体験が少しでも前向きな希望を持てるきっかけとなれば、うれしく思います。