「初日、芝居の冒頭で泣きました」東京・明治座での座長公演『氷川きよし特別公演』。8月28日から9月27日まで、31日間41公演を無事、完走した。あの感動を氷川が振り返る。 

 コロナ禍によってあらゆる劇場公演は春以降、中止や延期。氷川の座長公演は、コロナ後初の明治座での長期公演となった。

「自分も中止したほうがいいんじゃないかと一瞬思ったんですけど、でも、やれる可能性があるなら、やるべきだと思った。やっぱり、動かないと始まらないから」

感染者が出たら中止
「命がけで臨みました」

 PCR検査を受け、8月中旬。緊張に包まれながら稽古は始まった。

「1人でも感染者を出したら中止ですからね。そして“やらなきゃよかったのに”って間違いなく言われる。命がけで臨みました」

 稽古はマスクとフェイスシールド。外食は一切せず、公演中も楽屋の行き来はなし。帰宅したら手洗いうがい。そんな日々が長く続いた。

初日の芝居の冒頭で、自分が歌舞伎の格好で出てきたとき、バーッとすごい大きな拍手で迎えられて。泣きました。コロナ禍の中、それでも高いお金を払って、見たいと思ってお客さんが来てくれた。本当に感動でグッと来ました。そして、励みになりました」

 政府による感染拡大防止策にのっとり、客席は前後左右を空けた市松模様。収容人数も半分に抑えた。

公演期間中、PCR検査は3回受けました。館内放送で、最後の結果が“全員陰性”と流れたときは拍手の渦でした。思わず“イェ―!”って叫びましたもん。みんな、徹してやってくれたんだなと思って感動しました。本当に泣きそうになりました」

 今回の芝居『限界突破の七変化 恋之介旅日記』については、

「こういう時期だからこそ、おもしろくていいものを作りたかった。ひととき現実を忘れてもらえて、希望が持てるものを」

 第二部のコンサートでは、観客によるおなじみの“き・よ・し”コールは封印。かわりに拍手が鳴り響いた。

「本当に厚みのある、熱い拍手でした」

 『母』『限界突破×サバイバー』など全15曲を歌い上げた。未曾有の事態の中、不安とプレッシャーを背負いつつ、座長として公演を成功に導いた喜びは計り知れない。