もっとも、その点は彼女も自覚していて、女性誌のエッセイでこんなことを書いている。
「プライドを捨て愛玩動物として生きればどれほど楽だったか、と思うこともあるだろう。でも、私は知っている。自分の稼いだお金で食べる寿司は何よりも美味しい。私はプライドが捨てられない、そんな無様で不器用で愚かな自分が好きなのだから、これからも進んで苦労をしよう」
このエッセイはネットニュースにもなり、コメントは賛否両論だった。「安っぽい自己満足」とする声もあれば「哲学的」と評価する声も。
筆者は彼女の文才を買っているが、女子アナという肩書なしで通用するかは未知数である。
ちなみに彼女、2年前にも「アナウンサーをやるには、自我が強すぎる」という自己分析をしていた。そこから連想されるのは、田中とは別の元TBSの先輩たちだ。いまやすっかりフェミニストとなった小島慶子だったり、最近テレビで気色ばんだネット批判をしていた小林麻耶だったり。いわば、ちょっとこじらせ系のカテゴリーに彼女も分類されるだろう。
一方、田中のように、プライドと媚びのバランスを保ちつつ、そこそこ楽しそうに活動している人もいる。こちらは一見「愛玩動物」のようでも、いつの間にか飼い主である大衆を飼い慣らしてしまったかのような状況だ。
もちろんそれは、なかなかまねできる芸当ではない。ただ、最低限、芸能人が媚びて可愛がられてナンボという存在であることは知っていたほうがいいだろう。それが芸能人をやるうえでの民度であり、民度がない芸能人は消えていくほかない。
PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。